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第四十二話 「ラブホテル再び」

 角部屋とはいえ壁がそう厚くないので、隣の音が微かに漏れてきて落ち着かない。

 とりあえずまだ残っているつまみ類と酒をトレイにまとめる。


 もったいないし場所変えて飲み直すか。

 淫魔法【ラブホテル】を部屋の扉を起点に使おうとすると


 「むー、お父さんどこいくのー」

 丁度サナが目を覚ましたようだ。


 「ロマさんが帰ったので部屋を変えようと思ってね。サナも食べ物運ぶの手伝ってくれるかい?」

 「うん!」

 サナはそう元気よく返事するとマットから起き上がって床のトレイを手にする。


 「あたし途中で寝ちゃったんですね。この部屋はどこなんですか?」

 「探索者ギルドの二階にあるドヤ…じゃなくて簡易宿泊所だよ。ロマさんが寝ちゃったサナのために取ってくれたんだ。今度会ったときでもお礼をいっておくといいよ。」

 「そうなんですか。ロマさん良い人ですね。」

 いや、ホントにな。


 そう思いつつ、淫魔法【ラブホテル】を使った時に視界に浮かぶ6種類の部屋のパネル映像を眺める。

 いつも思うのだが、この選択肢、実際に手元にビジュアルで浮かぶと感覚的に選びやすいんだけどな。


ピコン!

>特性【ビジュアライズ】を習得


 今までで一番まともな名前のスキル(?)が来た

 効果は今まで自分の視界内にしか浮かばなかった視覚情報を空間上に仮想パネルのように外部視覚化し、そこで選択等も可能らしい。

 海外のSF映画であるような感じかな?


 早速使ってみる。

 鳩尾の高さくらい揃えた両手を外側に払うように動かすとその間の空間に6種類の部屋のパネル映像が浮かぶ。

 おう、なんか格好いい。


 「お父さんなんですかこれ?魔法?」

 トレイを持ったサナが覗き込んでくる。

 「昨日、転移魔法で変わった部屋に入ったろ?あれだよ。明かりが付いている部屋が使うことが出来る部屋だから、サナ、好きなとこ選んでいいよ。」

 「へー、そんなことが出来るんですね。お父さん凄いです。」


 と、いっても人族の身体だと使用コストが倍かかるせいで実質3つくらいしか使える部屋はない。

 この魔法、かなり魔力を使うのだ。

 淫スキル【淫魔】で淫魔の身体に戻ってから使えば良かった。失敗した。

 ちなみに時間帯だと部屋の利用時間はサービスタイムで利用可能だそうな。


 「じゃあ、このお部屋がいいです。どことなく故郷の雰囲気があるので。」

 そういってサナが選んだのはどことなく和風の部屋だった。

 鬼族の種族衣装もそうだけど、鬼族はそういう文化傾向があるのかも知れない。


 空間に浮かぶパネルでその部屋をタッチすると指先に光が乗るので、そのまま部屋の出口にスライドするように投げると、扉の外枠が光る。


 「なんか扉の外枠光ってます。」

 あ、この方法ならサナにも見えるんだ。

 「じゃ、移動するから着いてきてね。」


 入った先は、温泉旅館を思わせるような内装の部屋だった。

 ベッドもローベッドで枕元には行灯のような明かりもある。

 若干中国っぽい雰囲気が見え隠れしてる気もしないでもないが、座椅子と座卓もあり、落ち着いた雰囲気だ。


 トレイを受け取り、探検して来ていいよと告げると、サナは物珍しそうに部屋をウロウロし始めた。

 その間、座卓の上に残ったつまみと酒を並べる。

 さっきまで使っていたお猪口だと小さめで忙しないので部屋にある湯呑を使おう。


 座椅子に腰掛け湯呑に手酌して飲みつつ部屋に付属のガイドファイルをペラペラと眺める。

 札幌市内の部屋なんだなここ。

 入った記憶がないから、なにかで見た部屋も選択の対象になるようだ。

 ちなみにサービスタイムで20時まで利用可能だそうな。

 良心的というよりは3部制の2部枠に入ったっぽい。


 「お父さん、ここのお風呂も広いので後で一緒に…あー!」

 丁度再度手酌をしようとしているところにサナが戻ってきた。


 「おかえり。なにかあった?」

 「お父さんにお酌するのはあたしの仕事なの!」

 そういって徳利を奪われる。


 「はい、どーぞ、お父さん。」

 「ありがとう。」

 湯呑に並々と注がれる清酒「鬼盛り」


 「サナもまだ飲むかい?」

 「うん!」

 両手で持った湯呑に返杯する。

 座卓の向かいの座椅子に座ればいいのにサナは寄りかかるように横に座って、わりといい勢いで湯呑を傾けている。


 「お父さんの注いでくれたお酒美味しいです。」

 そういって笑うので

 「サナが注いでくれたお酒も美味しいよ。」

 そういって頭を撫でる。

 「えへへー、お父さんがそういってくれるの嬉しいです。」

 そういってまたスリスリと頭を肩口に擦り付けてくる。


 残っていた酒はそんなに量はなかったので、数回注ぎあっているうちに酒は切れてしまった。

 今は胡座をかいた私の右足を枕に仰向けにサナが横になっている。

 頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を細める。

 だいぶ酔いが回っているのか頬から耳まで薄っすらと赤みが差しており、トロンとした目とともに色っぽい。


 「お父さん。」

 「んー。」

 「あたし、実はさっきの部屋でのお父さんとロマさんの話、途中から聞いてました。」

 あー。


 「お父さんといると安心するんだけど、それとは別にドキドキしてなんか胸やお腹がキューッとしてたの発情期のせいだったんですね。」

 「そうか。」

 仰向けから私の腹側に寝返り、服に顔を埋めるサナ。


 「お父さんいい匂いする。」

 右手で頭から指先で耳をかすめるように後頭部、うなじから首までゆっくりと撫でてやるとサナがピクッと震える。


 念の為、淫スキル【性病検査】を使ってサナの状況を確認する。

 

【状態異常】発情

【健康状態】発情期(二日目:中期)、病気なし、処女


 ロマの読み凄いな。

 お酒のせいもあるかもしれないが。

 というか状態異常扱いなんだな発情って。


 サナが服をキュッと握る。

 「お父さん、迷惑かけてばかりでごめんなさい。でも…」

 そのままよじ登るように手を使いながら座り直しそのまま私に抱きつくと


 「切ないので助けてください。お父さん」


 耳元でそういった。


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