第四二○話 「学問のすすめ」
というか、チャチャ、芋が地面に埋まっているのを知っているくらいの知識はあるんだな。
全体的にチャチャは教育を受けていなさすぎる……と、感じるのだが、この世界の子どもの知識力が普通どれくらいか分からないので微妙なところだ。
ミツキは本の虫で知識欲の高いトライリンガルだから別として、サオリさんとサナだって、族長とその娘という教育環境には恵まれている知識層なので比較にならない。
2人も【鬼族語】はもちろん、普通に【大陸共通言語】の読み書きも出来るが、前にミツキに聞いた話だと、普通は亜人族の探索者でも【大陸共通言語】だと会話が出来るだけで読み書きが出来るものは3割に満たないらしい。
そもそも読み書きが出来るなら探索者ではなく、もっとちゃんとした職業に就いている。というのがミツキの言い分だ。
そう考えるとスキルとして言語を持っているのはある程度読み書き出来るのが前提なんだな。
それならチャチャが言語スキルを持っていないのも納得だ。
白猫族であるチャチャの実の母親は小さいころに亡くなったらしいが、思った以上に早く亡くなっているか、あるいは子どもの前でも【猫人語】を話さなかったのか、チャチャは【猫人語】も話せないので、ミツキと違って会話が大変そうな時に【大陸共通言語】じゃなく【猫人語】で会話するという裏技も出来ないので、意思疎通に苦労することが今後もありそうだ。
「チャチャは少しお勉強した方がいいかも知れないな。ミツキ、頼める?」
「あー、いいッスけど、【大陸共通言語】の読み書きならアタシよりママさんの方が適任だと思うッスよ。
ママさんは話し言葉も書く字も丁寧ッスから、言葉ごちゃまぜで訛りありのアタシより正しい【大陸共通言語】を学べると思うッス。」
そういってミツキは途中で買ってきたのか飲み物の瓶を机に並べ始めた。
サオリさんの方を見ると笑顔で頷いているので、チャチャの教師役を受けてくれそうだ。
人妻(未亡人)女教師サオリさんか。
属性てんこ盛りだな。
「お勉強ってなんですかにゃ?チャチャの新しいお仕事ですかにゃ?」
「そうだなぁ。これからチャチャにはお勉強というお仕事と、サナのお手伝いというお仕事をお願いしようかな?」
「!わかったにゃ!お仕事頑張るにゃ!」
そういってコクコクと頷くチャチャ。
隣でサナが一緒に頑張ろうね。と声をかけている。
チャチャにお仕事として何かをやらせた方が良いというのは、実はサナの提案だ。
チャチャは今までの生活から仕事をしないとご飯が貰えないと思っている。というのもあるが、サナやミツキがそうだったように、何か仕事や役割がないと今の衣食住に恵まれた環境を享受できない。
対価を払っていないと落ち着かない。と、言い換えた方が分かりやすいかもしれないが、そういう精神面のケアも自分の経験的にチャチャにも必要だと思うとアドバイスを受けたのだ。
サナが『お父さん絶対気持ちよくするガール』なのと、食事係に力を入れているのは、同じ理由からくるものだろう。
ミツキもサナと同じところがあるが、後者は知識面でのサポートの方が私が喜ぶと認識してるらしく、実際のところ今回の絵本みたいに助かっている。
サオリさんは元族長という立場から良い環境や奉仕されることに慣れているのか、あまり二人のように自分は何々をしなくては!という意識が少ないようで、それはある意味気を使わなくてもいいので楽だったりする。
強いて言えばサオリさんは族長や母親という立場から開放されて好きに生きて欲しい。と思うくらいだ。
なのでさっき、つまみ食いをしていた餅のベーコン巻きくらいは大目に見ようと思う。
「それじゃ、食べ物も飲み物も揃ったようだし、そろそろご飯にしようか。
それじゃ、「「「「いただきます。」」」」」
うん、最後がにゃすになっていたが、チャチャもいただきますを覚えたようだ。
▽▽▽▽▽
こころなしか食事に対してチャチャの遠慮が薄れてきているように感じる。
いや、ちゃんと「これも食べても大丈夫ですにゃ?」と顔色を伺ってはくるのだが、サナが絵本片手に「これは牛さんのお肉。ちーちゃん食べてみて。」と、勧めていたり、料理の説明をしたりと、お仕事の一部として食事を覚えさせるように食べさせているのが大きいのだろう。
ミツキやサオリさんもそれに倣って、色々食べさせたり飲ませたりしている。
餅とか。
ほんとサオリさん餅好きだな。
「サナはサオリさんほどお餅に執着しないね。」
サオリさんが餅好きなのは、白鬼族にとってお餅は新年くらいしか搗いて食べない珍しいご馳走だからという話を聞いた記憶がある。
それならサナにとってもご馳走なはずだが…。
サナです。
お餅…確かに美味しいんですけど、餅米を蒸しても蒸しても間に合わなかったり、お餅を伸ばしても伸ばしても終わらなかったり、丸めても丸めても食べられたりと、大変なんですよ。
次回、第四二一話 「矛盾」
搗いている間だけでも一升くらい食べられちゃいますし…。




