第四一六話 「交渉成立」
「断るメリットがないですね。
カレルラさんにも娼婦たちの命を守る他にも自身の立場、序列ですか?それの向上というメリットもあるのでしょう?」
性病治療が本当に難しいものであれば、それを癒やすことができる私と組むことは、この街の歓楽街でも、そして娼館ギルド内でもカレルラの地位や発言力を押し上げる事になるだろう。
「そういうことねぇ。」
わかってるじゃないの。といった表情で紫煙を吐くカレルラ。
しかし
「どちらかというと、そっちは私への説得材料のような気がしますね。
善意だけで利益を求めない約束は信じられない。私がそういう善意を信じきれない層だと思ったんじゃないですか?
でもきっとカレルラさんは本当に娼婦たちを、仲間たちを守りたいだけなのでしょう?」
しかしそのカレルラの本心は、あまりにも普段のカレルラ自身のイメージと違いすぎる。
だからこそカレルラにも利益があると、商売になると考える方向に誘導されているような気がしたのだ。
そうでなければ、娼館ギルドでは序列の低いなんて無駄な情報を、あのカレルラがいうはずがない。
そこは高くふっかけてもいいところだ。
「正解。だといったら?」
「喜んで手を組みます。
清濁併せ呑ませてまで飲まそうという信念は信用できますから。」
一瞬驚いたような表情を見せるカレルラ。
「利益でも善意でもなく信念を信用ね…。貴方が信頼できる相手のようで本当によかったわぁ。」
▽▽▽▽▽
「カレルラさんが何をどこまで知っているかは、あえて聞きませんが、さっき言っていた情報を提供しないというのは、どこまで可能なものなんですか?
この娼館だってギルドの影響下ですよね?」
なんだかんだといっても人の口に戸は立てられないのだし娼館に集まってくる情報であるからには、ここ以外の別の所に行く情報でもあるはずだ。
それに何よりギルドや公社からの照会があれば、カレルラだって立場的に答えないわけにはいかないだろう。
「何を知っているかを聞かないのは正解ねぇ。お互いにそれを口に出したら、それは噂じゃなくて事実確認になってしまうでしょうし。
まぁ、提供しないという言い方は、ちょっと語弊があるわぁ。
どちらかというと、相手が納得しそうな内容を代わりに提供する。って方がわかりやすいかしらぁ?」
つまり情報操作をしてくれる。という事か。
なるほど、それは心強い。
「でも、そうねぇ、ギルドマスターにはともかく、ロマくらいには情報を渡しておいた方が良いかもしれないわねぇ。
相談相手がいるほうが気が楽でしょう?
アタシ相手では緊張するようですしぃ。」
ミツキがうまくサポートしているようだけどね。と言葉を添えながら、また紫煙を吐くカレルラ。
確かに外部の人間で一番相談しやすいのはロマだし、一番怖いのはカレルラだ。
ただ、それだと知識的に偏るな。
「そうですね、昨日のパーティーメンバーの中でなら情報共有しても良いかもしれません。
だって皆さん、サビラキ・サオトメを敵に回すような事だけはしませんよね?」
「くくくっ、そうカードを切り直してとは……確かに、それだけは出来ないわねぇ。
それにしても会ったことのない相手を頼りにしてもいいのぉ?」
「私が頼りにしているのは、サナやサオリさんの方ですよ。」
「確かに姐さん、身内には甘いからねぇ。」
カレルラが納得いったように腕を組み直し頷く。
決まりっぽい。
「貴方が話して良いというのなら、もう一度集まって情報交換をするのも手ねぇ。
どうせセンセ、今回の誘拐団のことだってロマに話していないことがあるのでしょう?」
「さてどうでしょう?カレルラさんの知っている『噂』の内容次第で思い出すかも知れません。
とはいっても、こういった腹のさぐりあいをしているよりは、集まって相談したほうが効率的だと思います。」
なによりカレルラとタイマンは荷が重いのだ。
どれくらい重いかというと今日の話でスキル経験値を稼ぎまくったのか、スキル【交渉】がランク2まで上がるほどにだ。
ミツキッス。
んー、尻尾穴あきの服は買うとしても、猫人族だってわからないような恰好も一着あった方が良さげッスよね?
ゆったりしたワンピとか、帽子とか?
次回、第四一七話 「合流」
真っ黒ってのも勿体ないッスから、差し色入れて…っと。




