第四○九話 「けろけろ」
「はむ…」
私も含めて皆もチャチャの反応が面白いというか興味深いらしく、視線がその口元に集まる。
「!?」
一口目でその瞳が輝き、器をもってスプーンでガツガツと食べ始めるチャチャ。
途中、なんどか「にゃっ!」と目をスプーンから口を離すのは、おそらく熱かったのだろう。
美味しそうにというか、一心不乱にスプーンを動かし続けていたと思ったら、不意に食器をテーブルに置き直し、その後両手を口に当てて……吐いた。
一瞬チャチャの頬が頬袋のように膨らんだのを察して伸ばした私の両手が間に合ったのは行幸だったろう。
泣きそうな顔をしながら自分の手の中に、そして溢れた分はそれを包んだ私の手のひらの中へと吐瀉物が落ちていく。
「大丈夫、怒らないから、そのまま吐いていいよ。」
私の手のひらに落ちた分はメニューのアイテム欄に収納しているのでテーブルが汚れることもない。
ついでに包んでいるチャチャの手のひらにかかっている部分も収納してやる。
チャチャの隣に座っているサオリさんが、ゆっくりとチャチャの背中をさすり、ミツキが、コップに水を組んで持ってきた。
「大丈夫?お腹びっくりしちゃったね。」
そういいながらサナが向かいからチャチャの頭を優しく撫でている。
「ぉめんにゃぁさぃ…」
顔をグチャグチャにしながら悲しそうに、本当に悲しそうにチャチャが嘔吐している。
▽▽▽▽▽
「こんにゃに豪華なご飯をせっかくねねさんが作ってくれたにょに……それにととさんの手も…」
おそらく空腹過ぎたのか、あるいは粗食に慣れすぎていて胃が受け付けなかったのだろう。
吐瀉物はアイテム欄に収納してしまっているので実際にはもう汚れていないのだが、サナから受け取ったおしぼりで手を拭く。
それを見てまた身を竦め猫耳もイカ耳にしてしまっているチャチャ。
「気にしなくても大丈夫。」
「誰も取らないから、今度はゆっくり食べていいッスよ?」
ミツキが改めてよそって来たシチューをチャチャの前に置く。
「!?え?まだ貰えるですにゃ?」
「ちーちゃんのためにつくったシチューだからね。今度はちゃんと噛んで少しずつ口に入れてね?」
「ねぇね、ねねさん、ありがとうございにゃす…」
ポロポロと涙を流しながら、申し訳無さそうに改めてシチューを口に運ぶチャチャ。
『パパ、気づいてるッスか?』
『ま、薄々とはね。』
チャチャの家が貧乏だったと思うだけでは拭い去れない言動の違和感。
ネグレクトを受けていたのではないかという疑念。
そしてそれは、チャチャが本当は誘拐団に攫われたのではなく、親に売られたという可能性を示唆するものであり、同時に帰る場所が無い可能性があるということでもある。
『ミツキ、また頼まれごとをして貰ってもいいかい?』
『了解ッス。』
▽▽▽▽▽
「ととさん、本当にごめんにゃさい。」
ソファーに座ってくつろいでいると、目の前にチャチャが来てそういいながら跪き、私の手を取った。
そしてそのまま、てちてちと手のひらを舐め始める。
ちょっとくすぐったい。
「大丈夫、もう汚れてないし、元々怒ってもいないよ。」
そういって頭…は、また怯えられそうなのでミツキを見習ってチャチャの喉元を撫でる。
一瞬、怯えるような反応を見せたものの、害意は無いのが分かったのか、そのまま身を任せている。
軽くスキル【精技】を乗せているので、単純に気持ち良いのかもしれない。
様子を見つつ、そのまま首から頭、そして猫耳まで撫でてやる。
うーん、やっぱり頭皮のところどころに傷があったり歪になっているところがあるようだ。
端的にいってしまえば暴力を受けた跡だ。
化け猫からサルベージする際、頭を起点にしたので淫魔法【おっぱいの神様】では治らなかったのだろう。
機会を見て、今度もう一度【おっぱいの神様】を使って治してあげなくては…。
サオリです。
チャチャちゃん、いきなりでお腹が受け付けなかったのかしら?
それにしてもレン君、咄嗟に手で受けるなんて、動転したのかと思ったら、ちゃんと意味があったんですね。
次回、第四一○話 「寝床」
おっぱい飲みすぎて戻しちゃう赤ちゃんみたいで、ちょっと懐かしく思いました。




