第四十話 「ドヤ」
「ここの二階の簡易宿泊所の事だ。駆け出しのころは俺もよく使ったもんだよ。」
ロマはそういって装備を抱えると掲示板の横のカウンターの方に歩いていくので、サナをお姫様抱っこしてついていく。
「迷宮からも近くて安いものの部屋数は少ないので借りづらくはあるのだが、この時間なら大丈夫だろう。」
途中、ロマはウエイトレスにテーブルを指さしながら指示を出していた。
どうやらテーブルに残した分と追加の酒を届けるよう用意させているようだ。
それが終わりホテル風のカウンターに着いた。
「おや、ロマさんいらっしゃい。ここには久しぶりですね。」
スーツ姿の初老の女性店員が迎えてくれた。
水色のスカーフが落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「ダブルの部屋を一つ貸してくれ。寝具も込みだ。」
「あら、連れ込みですか?珍しい。」
「よせやい、そっちの趣味は無えよ。混んできたから部屋で飲むだけだ。」
クスクス笑う店員に揶揄われているロマ。
どうやら古い馴染みらしい。
「ここがドヤ
「簡易宿泊所です。」
食い気味に店員に訂正された。
「シングルで一日銀貨1枚、ダブルで2枚、寝具のレンタルは追加でそれぞれ銀貨1枚と2枚となります。」
店員が料金表片手に説明してくれる。
「ツイン部屋以上なら一人銀貨5枚になりますがベッドが最初からついてきます。なお、パーティー以外の相部屋はトラブルの原因になりやすいのでお勧めいたしません。」
「雑魚寝部屋はどうした?」
「それこそトラブルが多くて廃止しました。その分、シングル部屋の数が増えましたよ。最近は女性の探索者も多いですしね。」
ロマの問いにテキパキと答えていく老店員。
「部屋はダブルの5をお使いください。寝具は引いてあります。使い終わった後はどうなさいますか?」
「そこの新入りが泊まる。今日の払いは俺だが明日以降はこいつ次第だ。」
そういってロマはカウンターに4枚の銀貨を置き、親指で私を指さす。
「ロマさーん、お料理とお酒はどの部屋へ?」
「ダブルの5だー!持って行っておいてくれ」
ウエイトレスの言葉にそう答え、老店員から鍵を受け取るとロマがカウンター左手の階段の方に歩いていくのでついていく。
「ダブルの5はたしか炊事場に近い角部屋だったはずだ、場所は悪くないが中身は期待するな。」
階段を上がり、踊り場から最初の廊下の角を右に曲がる。
廊下は奥に延びており、左右にいくつかのドアがある。
その左側5番目のドアをあけ
「ここがドヤ
「簡易宿泊所でーす。ご注文の品、お持ちしました。」
また食い気味に否定される。
今度はウエイトレスだ。
「どっちだっていいじゃねえか…」
ロマはウエイトレスから酒と食べ物の乗ったトレイを受け取ると、手でシッシッとジェスチャーし部屋の中に入っていく。
ああ、確かにドヤだ。
寝るためだけの簡易宿泊所。
部屋の大きさは4畳半くらいだろうか、ダブルベッドより一回り大きいくらいのマットが引いてあり、二つの枕と毛布が添えてある。
つまりほぼほぼマット以外のスペースが無い。
壁には窓はないが装備や荷物を掛けるためなのかフックがいたるところに付いている。
天窓が一つあり、壁に立てかけてある棒で開け閉めできるようだ。
ピコン!
>プレイエリアに入りました。
ベッドルーム扱いなんだな。ここ。
ロマはマットを二つ折りにしてスペースを作り、そのスペースに枕を二つポンポンと配置している。
どうやら座布団代わりに使うつもりらしい。
その間にウエイトレスから受け取ったトレイを置いた。
「嬢ちゃんはマットの上に寝かせておきな。」
むにゃむにゃおとうさんすきーとか寝言をいっているサナをマットの上に寝かせる。
「さて、ここからは男同士の二次会だ。下では話せないこともあったしな。」
そういって、ロマは装備を外しドッカと枕の上に座ると徳利を持ちこちらに向けた。