第四○二話 「髪の毛」
タイミングは完璧。
何よりサナの動きが速かった。
呪弓を使っての束縛魔法から、流れるように矢筒から3本の矢を抜いて、至近距離からの3本同時撃ち。
後から聞いた話だが、【ドレイン】を付与した飛び道具を同時打ちすることの有用性については前からミツキとも話し合っていたそうな。
現にミツキとサナの攻撃だけで化け猫の体力を9割以上削ってる。
そこに駄目押しに入るミツキの雷魔法。
化け猫に刺さった矢を避雷針にするかのように確実に化け猫に当て、そして体力を更に削っていた。
この時点で残り体力は、ほぼ0。
サオリさんの薙刀が駄目押しで削りきった形だ。
しかしながらここで化け猫の体力ゲージが回復する。
と、いうか2本目の体力ゲージに移る。
サオリさんが体力を削りきっていなければ、2連撃の1撃目で1本目のゲージを削りきり、2撃目で体力の50%を【ドレイン】、からの気絶コンボの予定だったが、結果的にはドレインの2連撃で75%を吸い取り、万が一気絶しなかった時用に備えることが出来た。
結論からいうと、それは杞憂だったようで、化け猫は問題なく今までの敵と同じ様に気絶してくれた。
レベル差やランク差で、この気絶もレジストとかされるかと思ったが、そもそもレベルが上がれば上がるほど1発で体力の半分持っていくこと自体が普通難しいので、このあたりは別判定なのだろう。
「みんなお疲れ様。」
「やったッスね!」
「よかった!」
「なんとか殺さずに終われましたね。」
三者三様の感想が漏れるが淫スキル【性病検査】での鑑定によると、化け猫の余命は12時間を切っている。
相手にとっても相当無理な戦闘だったのだろう。
それにしても…
「ミツキはいいタイミングで来たわね。」
「フッフッフ、狙ってたッス。でもこれはサナちーのお陰ッスね。」
地下室に入ってミツキが薬で眠らされているのを知った後、サナとサオリさんにもそのことを念話で伝えておいたのだが、そこからサナは熱心に念話でミツキに呼びかけ、ミツキが目を覚ました後もこの地下室まで誘導してくれていたのだ。
もっともミツキ自体が監禁されていたわけではなかったことと、本人のレベルの高さから薬の効果を解毒するのが早かったことも有利に働いていた。
『レベル上げ』は無駄じゃなかったよ!たぶん。
「みんなのお陰で、なんとか気絶させることが出来たよ。」
そういってサナとミツキの頭を撫で、サオリさんと見つめ合いながら頷く。
▽▽▽▽▽
「ご主人様、この娘治る?」
「ママさん治した魔法でも無理じゃないッスか?もう人の身体じゃないッス。
根本から変わっちゃってるッスよね?」
念の為、改めて淫魔法【睡眠姦】で眠らせなおしている化け猫を憐れむように撫でるサナと、その横で化け猫の口元をめくり、牙を確認しているミツキ。
ミツキにはその知識や発想を借りるために、よく私が使う魔法の術理の説明もしていたせいか、そんな感想が漏れていた。
「そうでもないわよ?今、サナが撫でている金色のところは元からある髪の毛だった部分だから、そこを起点に治すことは可能だと思う。でも…」
「またレインさん、いえ、レン君が危険になるのですよね?」
胸に手を当てたサオリさんが心配そうにこちらを見ている。
前にサオリさんの癌を治した時に魔力不足が原因で小さくなってしまった事、そして最悪それは私自体が消える可能性すらあったことは、今はもう全員が知っている。
「死ぬつもりはもちろんないです。今回は魔力満タンの状態で試して駄目なら残念ですが諦めます。」
無情なようだが、他人のために家族に失わせることも、もちろん失うことも選べない。
いや選ばない。
とはいえ実際にはそう悲観したものでもない。
種族特性【ドレイン】を考えれば、全員が何らかの魔術師である誘拐団は恰好の魔力タンクだし、化け猫自体からも魔力を奪っておくのは安全面も含めて有効かもしれない。
なにより淫魔法【おっぱいの神様】で再構成させるのは化け猫の身体じゃなく、白猫族の少女の身体だ。
質量に応じて確かに必要魔力は増えるが、身体の大きさを考えればサオリさんを治した時と、そう変わらないだろう。
前回使用した魔力はたしか3,200ちょい。
必要だった量は4,100ちょいだったはずなので、それ以上を確保しておけば大丈夫じゃないかな?
サナです。
お父さんに褒められました!
でも矢の複数撃ちって全然距離は飛ばないし狙った所にも行かないので今回くらい近づかないと刺さらないんですよね。
次回、第四○三話 「体液」
弓も横に寝かせないと、あたしの握力じゃ矢を保持できないし、あまりちゃんと使える機会は無いかも?




