第四○○話 「化け猫」
化け猫の人の顔ほどもある大きさの前足が爪を伸ばしながらゆっくりと上がる。
ヤバい!
化け猫の振り返りながらの爪での一閃がアルダとダルラがいた場所を薙ぐ。
が、一瞬、私の槍でのスイングの方が速く、ホームランボールよろしく二人の身体が通路に吹っ飛びサオリさんの張った結界に激突した。
気絶した様子だが死んでないのでセーフ。
いくら悪党とはいえ、殺させるわけにはいかないのだ。
人道的な意味ではなく、全部吐かせるために。
改めて素早く気絶している2人に【睡眠姦】をかけ、追加で眠らせる。
これで数時間は持つはずだ。
サオリさんもそれに気づいたのか金剛結界を解き、薙刀を構えながらこちらとは反対側から化け猫に対し距離を詰めてきた。
警戒した化け猫がゆっくりと舐めるように部屋の中を見回し、裂けたような口元が、まるでニタリと笑ったように開く。
これ、戦わないと治まりそうにないな。
「とりあえず死なない程度に弱らせましょう!レベルは44、十分に気をつけて!」
「よ、よんじゅう…分かりました。」
淫スキル【性病検査】での鑑定結果を告げると流石にサオリさんが動揺している。
ランク4なんて人で言えば一万人に一人レベルでしかいない相手だ。
実は動揺しているのはこちらも同じで、レベルの高さもそうだが、ダルラが飲ませたあの赤い薬のようなものが白猫族の少女のレベルを一気に40も上げた事に対してと、化け猫だった白猫族の少女の余命が12時間しか無いことに対してだ。
【状態異常】に表示されているのは、『余命:23時間』の文字と、『■■の加護』の2つ。
後者の一部はなぜか読み取ることが出来ず、前者は時間経過でカウントダウンされていくだけではなく化け猫が動くたびにも大きく数字を減らしていっている。
良く言えば耐久戦でも勝てる要素があるといえるが、その場合は白猫族の少女はこの化け猫の姿のまま死ぬ。
急激なレベルアップから考えるに、先程ダルラに飲まされたのは命を圧縮して強制的にレベルを上げ暴走させる効果ある『何か』なのだろう。
【状態異常】についている『■■の加護』が原因なのか、加護自体は『何か』の効果のおまけなのかはわからない。
「シャッ!」
私の顔面を水平にスライスするように薙いできた爪をスキル【回避】を使いながらスウェーで躱したところに再度、淫スキル【マゾヒスト】による危険感知。
咄嗟に槍を地面に突き立て反対側からの爪をガードするが、その速度と威力に負け吹っ飛ばされる。
化け猫の両手による時間差の爪攻撃。
両手を使うために立ち上がった化け猫に対して背後からサオリさんの薙刀による足元を狙った横薙ぎが走ったが、それもジャンプで躱されたかと思うと、空中で体勢を変え、天井の梁を足場に跳ね返るようにして化け猫は体勢が崩れた私に向かってくる。
両の手から伸びた長い爪が胸と腹を貫こうと迫ってくるのに対して咄嗟に槍を投げつけ、そのまま転がるように【回避】する。
飛来した槍を片手で払い、そのまま地面に私を爪で縫い付けようとする4連撃。
最後の一つは掠ったものの、私の目の前から化け猫の首を跳ねるような軌道で切り上がるサオリさんの薙刀を回避しようと化け猫が後ろ飛びしたことにより、いくぶんか距離が離れた。
あらためて化け猫と地下室を見渡すと、おそらくここは何かの倉庫だったらしく、バレーのコートくらいの広さがあり天井もかなり高く、強度を取るためか太めの梁が何本も巡らされている。
現在、ここで金網デスマッチならぬ地下室デスマッチの状態なのだが、その敏捷性と身体能力的に、立体的に動ける化け猫の方が圧倒的に有利だ。
また素早い移動からのしなやかに伸びてくる前足の爪のリーチも馬鹿にならない。
そしてその爪に捕まったが最後、あの子どもの指ほどもある牙で噛み砕かれるのであろう。
化け猫はその全身を覆う黒い体毛の中に、まるで裂けて肉が見えているかのように赤い体毛の房が混じり、元の姿の面影は、その額から後頭部にかけて伸びるかつて髪の毛だったであろう金の体毛だけとなっている。
大きな蒼い目は血走り濁った闇を思わすような大きな瞳に変わってしまっている。
…何とか元に戻してやれないものか…そうだ!
「サナ!『大地の加護』って、魔法解除魔法で祓える?」
「やったことないのでわかりません!」
「それじゃ試しにあいつにやってみて!」
サナの魔法解除魔法は魔法そのものを不浄なものと扱いお祓いする魔法だったはず。
『■■の加護』や『大地の加護』が一定の食べ物を摂取する事による魔法効果であるなら、消すことが出来るかもしれない。
とりあえず魔法効果で化け猫になっている可能性から潰していこう。
サオリです。
この速さとこの身のこなし、わたしはともかくレインさんの攻撃までかすりもしないなんて…。
少しでも動きを止める方法はないかしら?
次回、第四○一話 「■■の加護」
いえ、それはわたしの役割じゃないわね。




