第三九九話 「スチール」
そんな事を考えているうちに、ダルラ達の魔法が唱え終わった。
淫スキル【性病検査】で白猫族の娘を鑑定すると、11歳だったはずの年齢が12歳になっている。
厳密にいうと、12歳(11歳)と表記されているので、実年齢が変わっているわけではない様子だが、おそらく奴隷としての登録年齢を詐称する術式だったのだろう。
奴らの話ぶりから考えると【魔術学士】の兄ちゃんの能力か技術らしい。
いや、それだと奴隷たちの移動中に可能だったはずなので、少なくても詐称の方は消去法でアルダの方の能力か技術か。
ロマの言ってた奴隷ロンダリング疑惑の犯人はこっちっぽいな。
どちらも違法だが稀有の能力の様子なので消される可能性は低いものの、証拠隠滅のために。という可能性は捨てきれない。
少なくても誘拐団の方は【魔術学士】の身柄さえ押さえれば諸々の立件は可能だ。
とりあえずこちらだけでも確保しよう。
『サナ、サオリさん、奴らの身柄を押さえる。降りてきて。』
▽▽▽▽▽
「誰だお前は!?」
ダルラの怒号が天井の梁から【魔術学士】の兄ちゃんとダルラ達との間に降り立った私に向けて響く。
その問いに答える前に、淫魔法【睡眠姦】で既に眠らせ、倒れる寸前だった【魔術学士】の身体を捕まえて、ダルラ達のいる方向と反対側の壁際にぶん投げる。
多対一なので多少荒っぽいのは勘弁して欲しい。
「察しはついてるのでしょう?探索者ギルドの者よ?」
ギルドマスターから貰った鋼の認識票、通称『スチール』の方の探索者票を胸元から取り出し見せると、目に見えてアルダの顔が強ばる。
スチールの探索者票はギルドの非常勤職員を表す。
つまり、アルダからすれば自分たちの行いがギルドに全てバレたということだ。
「ヤバい、兄貴、ギルドに完全にバレた。」
「何!?」
あ、名前が似てると思ったら兄弟なのね貴方達。
『サオリさん、奥の通路を封鎖して。』
「【金剛結界】!」
踵を返して外や迷宮に繋がる通路に逃げ込もうとした二人の目の前にサオリさんの結界が立ちはだかる。
今や唯一の逃げ場となった地上への入り口の前には、薙刀を構えたサオリさんと、魔法の杖代わりの呪弓を構えたサナが立っている。
「そっちの娘に見覚えが、あるわよね?」
サナを見たアルダとダルラの目が泳ぎ、それを見たサオリさんの殺気が膨れ上がる。
まてまてステイ。
殺しちゃ駄目。
「兄貴、使え!奴らの仲間の兎がレベル33だった。おそらくこいつらも同じくらいのはず。」
「さ、33?ありえねぇ!それに、この距離で使えば俺たちも巻き込まれる。」
「いいから使え!どの道こいつらを殺らないと俺たちは逃げられねぇ!」
何かするつもりか?
淫魔法【淫具召喚】で槍を用意するとともに、淫魔法【睡眠姦】でダルラを止めるつもりだったが、相手の動きの方が早かった。
腰のポーチから取り出した「何か」を、オロオロとする白猫族の娘の口にねじ込み、顎を掴んで強制的に噛ませて飲み込ませたのだ。
娘を人質にするのか?と、一瞬動きが止まったところを狙った早技だった。
ダルラはそのまま娘を蹴飛ばし距離を取る。
かぶっていたローブのような上着のフードが外れ、その顔が顕になる。
ぱっと見の雰囲気は以前護衛した御姫様に似た感じだ。
おそらくまだ毛先はローブの中にあるであろう長さの金髪は、まるで光が流れているようにしなやかで、センター分けの幼さが残った顔に光る猫の瞳を思わせる大きな蒼い目と合わせて金細工の装飾品のようだ。
頭の上には、ちょこんと髪の毛と同じ金色と白に彩られた猫耳が乗ってはいるが、今は怯えるように後ろ向きに畳まれている。
口から飲まされたであろう赤い液体とよだれをダラダラと垂らしながら首元を掻きむしるように苦しむ白猫族の少女の長い頭髪が逆立っていく。
鼓動するような動きとともに少女の手足が獣を思わせるような形に伸び、身体も膨らみ、その膨張に耐えきれなくなって破けた服の下には既にその身体全体を覆うように赤黒い体毛が身体を包んでいる。
もはや白猫族の少女の面影はなく、四つん這いになった肉牛ほどの大きさの『化け猫』の目だけが怪しく光っていた。
サナです。
あの小さな娘が、あんな姿に…。
…ううん、大丈夫、きっとお父さんなら、なんとかしてくれる。
次回、第四○○話 「化け猫」
今、あたしに出来ることは…




