第三十九話 「ゴールド」
探索者ギルドの認識票には5種類ある。
一番低いのは記号と番号が彫られた木製の認識票。
私とサナが持っているやつだ。
記号が性別を表し、番号は探索者名簿に登録した時の連番の番号だ。
初心者や一見さん用の認識票は自動的にこれになる。
この上が銅色の認識票。
同じく記号と番号、そして名前が彫ってある。
通称「カッパー」
探索者としての経験があり、かつ、ランク1以上、つまりレベルが10以上であることが条件だ。
書類上の話だとレベル20でデミオークのドロップ品を納めた私は、もう何回かこれを繰り返すと条件を満たすことになる。
ギルドに貼ってある依頼はカッパーから受けることができるらしい。
その上が暗い銀色の認識票。
通称「シルバー」
彫ってある内容はカッパーと同じで、探索者ギルド掲示板からの複数の依頼の達成経験があり、かつランク2以上、つまりレベル20以上であることが条件。
シルバー以降は迷宮だけじゃなく、街中や郊外を対象とした依頼も受けられるようになるし仕事の指名も入るようになるそうな。
その上が実質トップの金色の認識票。
通称「ゴールド」
熟練の探索者または大きな依頼を達成したものであり、かつランク3以上、つまりレベル30以上であることが条件。
ここまでくると、ギルドから給料も出るようになり、ほぼほぼ指名だけの仕事でも食べていけるそうな。
逆にカッパー以下が対象の依頼は受けることができない。
更に上には明るい銀色の認識票。
通称「プラチナ」
探索者ギルドまたは公社から直属の依頼を相当数達成するか、またはランク4以上、つまりレベル40以上であることが条件。
実際にはランク4は軍隊での大隊長クラスで国内に10人前後しかいないのが普通なのでゴールド以降は軍のスカウトで探索者を辞めていくものがほとんどだそうな。
必然的に変な人や国によっては亜人が残り、各探索者ギルドでも一人二人いればいい方で、プラチナがいないギルドも多いらしい。
エグザル探索者ギルド出身のプラチナは多い方らしく3人の登録があるが、わざわざ自分からギルドに顔を出すのは稀だそうな。
そのプラチナまではいかないまでも、ゴールドとなればロマは探索者ギルドではかなりの有力者だろう。
「ゴールドとは凄いですね。そこまでの道は大変だったんじゃないですか?」
サナから徳利を借り、ロマのお猪口に酒を注ぐ。
「いや、最初は冬の出稼ぎに来ただけだったんだがな、性に合ってたのか運が良かったのかズルズルといるうちにいつの間にかゴールドだ。なりゆきだよ。」
そういってロマは酒を呷ると返杯してくれた。
あっ、とサナの両手が動く。
注いでくれた酒をそのまま飲み干して、今度はサナの方にお猪口を向けると嬉しそうにロマから徳利を受け取り両手で注いでくれたのでまた空ける。
「美味いな。サナの注いでくれる酒は本当に美味い。」
「そんな、誰が注いでも同じですよお父さん。」
「いやいや、嬢ちゃんそれが違うんだ。
酒も飯も相手の事を思って用意して貰ったものは本当に美味い。
気持ちがこもっているというのかな?特に酒は何より一緒に飲む相手によって美味さが違う。
嬢ちゃんが注いでくれる酒は親父殿には最高の美酒だろうよ。なあ?」
「その通り。サナは今もこうして次を注ごうと待ってくれているだろ?その気持ちが嬉しく、また美味い。もてなそうという心を飲み、食べるのが酒の席というものだと私は思う。ありがとうサナ、美味しいよ。」
そういってまたサナにお猪口を差し出すと、今度は花が咲くような笑顔で注いでくれた。
うちの娘は本当に可愛いな。
む、空きっ腹でカパカパ飲んでいるせいか、だいぶ酔いが回ってる。
「おお、レンはいいことを言うな。然り然り。」
ロマもご機嫌だ。
サナから徳利を受け取り、サナにも返杯する。
「水分多く取ると悪酔いしないから、途中でブダのジュースを多めに飲んでおくといいよ。」
両手で持ったお猪口に注がれた酒を見ていたサナがこちらを見つめなおし
「ホントだ、心配してくれる気持ちだけでもう美味しいです。」
そういってお猪口を空けた。
空きっ腹にこのペースはヤバそうなので、つまみ替わりにまだ一口づつしか食べてなかったローストサンドを小さめに切り分け、厚切りの方の一つをサナの小さな口に放り込む。
「美味しい。」
サナもニコニコ顔だ。
「この酒には合わないかもしれませんが、ロマさんもよかったらどうぞ。」
「おお、すまんな。いただくよ。」
自分も薄切りの方を一つ二つ摘まむ。
マスタードソースはこの酒には微妙だが、厚切りの方はそれなりに合いそうな気がする。
その後はもう普通に飲み会だ。
ロマの迷宮での体験を肴に更につまみを追加注文をし、サナが嬉しそうにお酌をしてくれるのでついつい飲みすぎてしまう。
ロマが面白そうにサナに返杯をするので、すっかりサナは酔いつぶれて寝てしまった。
今は、さっきのように膝の上というか脚の間に座らせ左手で抱きかかえている。
「その恰好じゃ飲みづらいだろ、昼時で店も混んできたしドヤで部屋飲みするか。」
「ドヤですか?」
 




