第三九四話 「エグザルの迷宮」
「パパ、レベル上げが目的なら、エグザルじゃなくてトルイリの迷宮に行かないッスか?」
「トルイリの方?」
「あー、ごーれむ叩き?」
「そうッス。たしかハイスチール・ゴーレムが落とす白鉄鋼もエグザルの探索者ギルドで輸入代行の依頼が出ていたはずッスよ。」
淫魔法【盗撮】で記録しておいたエグザルの探索者ギルドの掲示板の情報を確認すると、確かにミツキのいったとおりトルイリから白鉄鋼を買い付けてくるという依頼があった。
よく覚えていたな。これ。
依頼自体は1個から受け付けてはいるが、5個1セットなら仕入れ値込み5金貨なのでトルイリのギルドで捌くより2金貨もお得だ。
一般的なトルイリとエグザルの間の往復旅費を考えると、2金貨増しでもパーティーの人数によっては赤字になりかねないが、自分たちの場合は旅費とその時間は気にしなくても良いのでかなり美味しい案件だろう。
あと経験値の方も前にトルイリの迷宮に入った時は1000ポイントくらい稼いでいたし、ハイスチール・ゴーレムは挙動が独特なので止め刺す人を選びやすいから三人の経験値を均すのも簡単だ。
うん、これは丁度いいかもしれない。
「良いアイディアだな。それでいこう。」
▽▽▽▽▽
「えっ?こんなにですか?え、はい、一応高価なものなので再鑑定しますね。」
エグザル迷宮管理公社の換金所で係員のお姉さんが目を白黒している。
持ち込んだ白鉄鋼のカプセルは20個。
4セット分、20金貨になる計算なので、依頼料でサナやミツキが買えちゃうレベルだ。
冷静に考えたらトルイリのギルド並みの金額で仕入れる事が可能だとしても、シルバーの探索者が気軽に用意出来る金額じゃないので係員のお姉さんがびっくりするのも仕方がない。
白鉄鋼をドロップするのはランク3のハイスチール・ゴーレムなのだから尚更だ。
結果として入荷量が少ないのかトルイリのギルドでも係員が小躍りするくらい喜ばれていたしな。
▽▽▽▽▽
換金も済み、授法の儀式も終わらせた頃にはお昼の1時半くらいの時間になっていた。
今はいつぞやのパンケーキ屋で遅めの昼食を取っている、
トルイリの迷宮のゴーレム叩き(サナ命名)のおかげで、三人ともレベル上がる事ができ、レベル33になった。
私の方も昨日レベルが上がったばかりだったのだが、種族特性【ドレイン】で敵から経験値を吸い取れる分、経験値の取得が多く、無事レベル39まで上がっている。
期待していた魔法の方だが、サナやサオリさんは新規の魔法はなく、ミツキが装甲魔法を一つ覚えただけだった。
とはいえ守りが硬くなるのは良い事なので、レベル上げの価値はあっただろうし、1レベル分のステータスアップだって馬鹿にならない。
「それにしても、レン君が社で地母神様に交神できないのは困りましたね。」
サオリさんがフォークに刺したパンケーキ片手に首をかしげている。
「『大地の加護』がつく以上、パパもご主人様モードなら地母神様系列の種族なのは間違いないと思うんスけどねー。」
キコキコとパンケーキを切りつつサナが相槌を打つ。
「やっぱり半分人族なせいでしょうか?はい、あーん。」
新作との触れ込みなフルーツパンケーキの味見を私にもさせながらサナも首を捻っている。
「あーん。…自分でいうのもなんだが、私自体イレギュラーな存在だからなぁ。
あ、結構美味しい。」
「さらっといちゃつくッスよね。」
「そうねぇ。」
微妙にミツキとサオリさんの視線が痛いので、自分の分のベーコンレタスパンケーキを小さく切って、それぞれに口に食べさせる。
「甘くないのも美味しいですね。」
「そうッスね。悪くないッス。」
【職業】に就いたり【魔法】を覚えるには地母神様に交神するのは必要不可欠らしいのだが、私の場合は少なくても地母神様系列種族の共通経典では交神は出来なかった。
まあ、【職業】の方はともかく【魔法】の方は、ほっといても覚えていくので、実際には常に交神状態なのかもしれないが、そっちの方は勇者としての能力の可能性があるので、なんともいえない。
みんなの話からすると、淫魔族専門の経典が必要か、あるいは昔の鬼族のように淫魔族自体がまだ地母神様のいる根の国のみに居て、地上に祭祀が出て来てない種族なので、現世では交神が出来ない可能性もあるそうだ。
「パパモードなら教会で勇者の洗礼は受けれそうッスけど、絶対大騒ぎになるッスよね。」
あ、一応勇者もちゃんとした職業扱いなんだ。
サオリです。
私の職業【族長】に就く時みたいに特殊な経典や儀式、斎場が必要になるということもありますから、レン君の場合もそうなのかもしれません。
なんとなくですが、レン君にあった斎場を用意すれば交神できそうな気がします。
第三九五話 「教会」
交神が出来ていないというより、繋がっているけど凄く遠くに地母神様がおられて声が届かない。みたいな感触なんですよね。




