第三八七話 「希少価値」
「あれ?焚き火してたの?」
「ふっふっふー、魔法の実験がてら火起こししてたッスー。」
「実験?」
思わずサオリさんと顔を見合わす。
鬼族は薪でかまどを使う文化圏らしいので、サナが火を起こせるのは当然なのだが、ミツキの魔法の実験というのが気になる。
「この枯れ木にッスね、炎属性を付与するんスよ。」
どうやらミツキが実演してくれるようだ。
ちなみにこの属性付与魔法は、修験者であるサナでも使えない種類の魔法らしい。
「当然、木は火に弱いッスから、時間たつと燃え始めちゃうんス。これを何個か種火にして、他の枯れ枝を重ねて…」
「あとは、サナちーがスキル【魔力操作】で調整した風魔法で風を送ると、簡単に火おこしが出来ちゃうんです。」
珍しくサナもドヤ顔をしてる。
かわいい。
「【魔力操作】で炎魔法の方を調整して直接枯れ枝を燃やす方法も考えたんスけど、こっちの方が熾火の様子が見やすいので燃え方を調整しやすいッスね。」
そういって、実演したみせた後、わざとらしくパンパンと手を払っているミツキだが、褒めて褒めてオーラが隠しきれてない。
どうやらこの世界では一般的ではない方法を発見、いや発明したらしい。
「一般的には今ミツキやサナがやったみたいに、魔法を普段使いしたりしないものなのかい?」
ファンタジー的に考えると、自分がまさにそうしてるように何でも魔法で解決しそうな気もするが。
「私たちが使う魔法は信仰の力が土台となっているので、出力を強くするのは、そんなに難しくないのですが、弱く調整するのは難しいんです。
サナが使ったスキル【魔力操作】は、普通熟練の魔術師系の職業が持つスキルですから、これも珍しいですし…」
サオリさんがそう解説してくれた。
魔法の術式的にベースとなる威力が設定されているので汎用が聞かないんだな。
「さっき使ったアタシの魔法だってランク2以上の魔法だったはずッスから、探索者としてはともかく、一般的にはかなり珍しいはずッス。
あと魔法じゃなくて人族の使う技術としての魔術なら威力の下方修正も可能らしいッスよ?」
逆にいうとベテラン探索者なら同じような火の起こし方はしてるかも知れないッス。と、ミツキが補足してくれた。
探索者の集う迷宮という場所で急激にレベルが上がっているので、どれくらいのレベルが一般的か、そうじゃないかが、未だに良くわからないんだよな。
買ってきた木炭をメニューのアイテム欄から取り出し、バーベキューの準備をしながら、その辺りの感覚をミツキ達に聞いてみた。
一般的にいうと、ランク2に到れる割合は、一般人も探索者も軍人も全部含めた総人口でいうところの、百人に一人くらいの割合らしい。
ランク3なら千人に一人、ランク4なら一万人に一人と、そうとう希少なのだそうな。
当然、探索者や軍人だと割合は上がり、一般人だと下がる。
前に酒の席でロマに聞いたところだと、エグザルの街を含む十二新興街の規模はかなり大きいほうで、それぞれ大体1万5千人前後の人口だというから、その計算だとランク3は街に15人前後しかいないことになる。
計算上、そのうちの4人がここにいるってのは凄いな。
とはいえ、エグザルの街は新迷宮と旧迷宮の2つの迷宮がある関係で探索者も多く、それらを含めた総人口も2万人近いらしいので、実際にはもうちょっと人数はいるだろうし、普通に考えて私達以外のランク3が20人前後いると考えたほうが正解に近いような気がする。
ロマのパーティーだって、おそらく全員ランク3だろうし、流石に関係者だけでランク3の殆どを占めるということはないだろう。
あとちなみにランク3やランク4が少ない理由としては、ランク2と同じく死亡や怪我でそこまで強くなれないという理由のほかに、そこまで強くなると所属国直属の戦力として軍などにスカウトされてしまうというのがあるそうだ。
ゴールド以上はギルドから給料が出るというのも分かる気がする希少さだな。
と、いうかギルドはギルドで給料を出して引き止めているというのが実情だろう。
「サナちー、カニはまだ揚げないッスか?」
「うん、ここは水が綺麗だから大丈夫だと思うけど、一晩泥抜きしておいた方が臭みが取れるから、揚げるのは明日の朝かな?」
しまった、そういう行程があるのか。
サワガニのから揚げで一杯やる計画が早々に頓挫してしまった。
サオリです。
サナが、といいますか『修験者』がスキル【魔力操作】で、本来出来ないはずの魔法の威力の調整が出来るのは、『尼』や『巫女』が地母神様や氏神様にお仕えする職業であることに対して、『修験者』は生きながら地母神様や氏神様の域に至るのが目標の職業だからという話を聞いたことがあります。
次回、第三八八話 「大地の加護」
実際のところはどうなのでしょうね?




