第三八一話 「滝」
それにしても天気が良い。
その上、丁度そういう時間帯なのか、山道が伸びる方向と太陽が照らす方向が一致しており、背中をジリジリと焼かれ、体力的にはともかく気温的に汗ばんできた。
さほど幅が広くない山道なので蚊などの虫も寄ってくるのだが、これにはサナの中級物理防除アップ魔法で対処している。
この魔法は着ているものを含む身体の表面上に魔法のフィールドが張られるので、通常の虫程度の質量では身体に触れることも出来ない。
わりと贅沢な使い方だなこれ。
アブとか大きめな虫が向かってきては弾き返されていくのはちょっとおもしろい。
「滝の音が大きくなって来ましたね。」
「方向的にあの大きな木に隠れているだけだから、そこの曲がり口を超えたらもう見えると思うよ。」
そういって指を刺そうと思ったころには、滝の一部が見え始めた。
まだ少し距離があるので正確な高さは分からないが、4~5階建てのビルくらいはあるだろう。
切り立った岩肌に細く水が落ちているように見えるが、それでも5m前後くらいの幅はありそうだ。
滝壺から飛沫が上がっており、太陽の光でうっすらと虹がかかっているのが見え、結構幻想的な景色だ。
滝の下は少し大きな泉になっているが、そこからは5mほどの川が南の方向に伸びている。
河原の広さは最初の泉に落ちていた滝と同じくらいなので、本来の川幅というか増水時の川幅は10mくらいなのだろう。
そう考えるとこの地区は、かなり水の豊かなところだな。
「綺麗ですね…。」
殿を努めていたサオリさんが、いつのまにか先頭を歩いていた私の横に立って、そんな感想を漏らした。
ちなみに、私の後ろを歩いていたサナとミツキの二人はテンションが上がりすぎたのか、山道を滝のある河原に向かってダッシュしている。
おー、やっぱりミツキの方が早いな。
「ちょっと時間はかかりましたが、来てよかったですね。」
「そうですね。もうちょっと涼しい時間の方が良かったかもしれませんが。」
「うふふ…」
マップと淫魔法【夜遊び情報誌】で調べても半径10Kmほどの範囲には熊をはじめとした危険そうな動物はいないため、サオリさんと一緒に、ゆっくりとサナとミツキの後を着いていく。
厳密にいうとランク2くらいの野生動物はちょこちょこといるのだが、最大でもレベル24程度なので、今のサナ達には驚異にならないだろう。
しいて言えば毒蛇くらいが危なそうだが、サナが解毒魔法を持っているし、毒耐性魔法は二人共使えるので大丈夫だろう。
私も種族特性の【性病破棄】で毒は効かないし、個人で対処法が無いのはメンバーの中ではサオリさんくらいだ。
そんな事を考えながら歩いて行くと、向こうでサナとミツキが叫んでいるっぽい。
っぽいというのは、滝の落ちる音で、この距離では声が聞こえないのだ。
本当に急いでいるなら念話で話してくるだろうから、何かを見つけてテンション高くなっているだけだろう。
▽▽▽▽▽
「ね?」
「なるほど、これは凄い。」
「アタシ初めてッスよ?こんなの見るの。」
「たしか見た者は願い事が叶うんでしたっけ?」
こっちの世界にもそういう言い伝えがあるのか。
サナ達が立っている位置まで来てみると、そこから滝に向かって2重の虹がかかっているのが見える。
滝壺に落ちる水が、下の大きな岩場に跳ね返るというか、アーチを描くように誘導され、少し離れた大岩にぶつかって更に水しぶきを上げているので、それぞれに光が反射して2つの虹になっているっぽい。
当然太陽の光の加減があるので、これを見れる時間はそう長くはないはずだ。
「これはいい時間に来たな。」
「うん!」
「おおおー、2つに見えるのはこの辺までッスねー。」
ミツキは光の反射で虹が出る事を知っているのか、左右に動きながら二重虹の見えるポイントを探っている。
「河原までくると流石に涼しげですね。」
サオリさんは大きめの岩の腰掛け、靴を脱いだ足先で川の水をかき混ぜるように動かしていた。
片方の手を岩に付きながら、脱いだ靴を片手にぶら下げている仕草が、ちょっとした旅行関係のポスターみたいだな。
ミツキッス!
二重虹は幸運の象徴で、祝福や人生の好転みたいなラッキーサインッス。
ママさんが言ったみたいに願い事が叶う。みたいな言い伝えがあるところもあるッスね。
次回、第三八二話 「川辺」
これからの事を考えると、今日見れてラッキーッス!




