第三七九話 「実食」
「これは美味しそうだな。」
「はい、お父さん、冷める前に食べて食べて。」
「それじゃ、いただきます。」
「「「いただきます。」」」
目の前には、先程釣ったヤマメのような魚を串に刺して塩焼きにしたものと、同じく一口サイズにぶつ切りにして唐揚げにしたもの、あとは香の物が並んでおり、焼きたての魚の良い香りがしている。
早速串焼きを片手に取って、かぶりつき、返す刀でサナが用意してくれていたおにぎりを頬張る。
美味い。
魚の味自体はニジマスに近い感じだな。
「お父さん、こっちは少し味付け変えてますよ?」
「どれ一口。」
サナの差し出した串焼きを齧ると、塩味のほかに昆布の旨味があり、魚の風味を引き立てている。
「昆布塩?」
「うん。唐揚げもこっちは片方は塩味で、こっちはにんにくと生姜と醤油で味変えてみたので食べてみて?」
「パパ、これ美味しいッスよ!」
ミツキが口に放り込んでいるのは、後者の唐揚げだな。
両手がおにぎりと串焼きでふさがっているので、ミツキに一つ口に入れてもらう。
「あー、これもいいな。」
「うふふ、お酒欲しくなる味ですね。」
サオリさんがモゴモゴしている口を押さえながらそんな感想を漏らす。
確かに。
「串焼きの方は、お好みで醤油かけても美味しいと思います。」
サナがそう勧めてくるが、そこまでいってしまうと、もう飲酒案件になってしまう。
でもかける。
焼き立ての魚に香る醤油の匂いがまた食欲を誘う。
「やっぱり自分で釣った魚って美味しいッスよねー。」
串焼きの串の端と端を持ってかぶりついているミツキ。
「サナの作ってくれるご飯はいつも美味しいけどね。」
「今回はアタシやママさんも手伝ったッスよ!?」
知ってる。
魚を捌くのに失敗した方を唐揚げにしているのも実は見てた。
「えへへ、たくさん食べてね?」
▽▽▽▽▽
「もう1~2匹残しておいても良かったかな?」
キャンプ場の管理人に引き取って貰った分を除いて、4人で7匹を食べていた計算になるのだが、結局ペロリと完食してしまった。
1匹20センチから、大きいのは30センチくらいある魚だったのに。だ。
「お父さん足りなかった?」
「いや、お腹はいっぱいだけど、予想以上に美味しかったから。」
そういってサナの頭を撫でる。
余談だが、もちろんその手は淫魔法【淫具召喚】で出したウエットティッシュで拭いて綺麗にしてある。
この魔法はウエットでもそうでなくても、どこでもティッシュが出来るのが地味に便利だ。
キッチンペーパーも出せるとサナの料理の幅ももっと広がりそうな気はするが、微妙にジャンル違いのようで選択肢には出てこない。
「それじゃ、お片付けしてくるッスね。」
ミツキが皿や揚げ物をした後の鍋などを持って調理場へと向かっていった。
ちなみに今回使った油は淫魔法【ウェット&メッシー】で出したもので、今はその出した油自体もキャンセルして消してあるため、油の処理に困るようなことはないはずだ。
あとお腹の中に入った油分もキャンセルされてヘルシーになっているはず。
たぶん。
「さて、キャンプといったけど、何をしたものかな。」
いつの間にか私の膝枕に仰向けで寝ているサナの頭を撫でながら考える。
子供連れなら、それこそ日が暮れるまで虫取りや川が近ければ川遊びという選択肢がパターンだが、うちのメンバーはあまり前者のイメージがないな。
川遊びもどちらかというとまた海のときみたいに漁になりそうなイメージだ。
もっとも今はお腹が膨れている状態なので、そういうモードにはならないかもしれないが。
「そういえば、西側の門から出て少し行った所に滝と水浴びが出来る泉があるらしいですよ?」
流石、お風呂のチャンスを逃さないサオリさん。
私は気づかなかったがキャンプ場の管理棟にそんな掲示があったらしい。
現在の時刻はおおよそ12時半くらい。
たしか隣接している街から人が到着しはじめ、このサルトの町が混み合うのが1時過ぎと前に聞いていたので、人が少ないうちに行ってくるのも手だな。
サナです。
美味しく食べて貰えて嬉しいです。
調味料が沢山あるのって楽しくていいですね。
前にお父さんに買ってもらった調味料セットは、あたしの宝物ですけど、今はもう2セット目の調味料入れも埋まってしまいそうです。
次回、第三八○話 「山」
あと、お漬物バッグも、もう一品欲しい時に活躍してます。




