第三七六話 「川の字再び」
暑苦しい。
いや、違うな。
暑い&息苦しい。
腕が、首が、動かない…と、感じたその時、その首が片方に引き寄せられる。
「ん、んんんん~ん…」
苦しさに目を開けると、そこにはミツキのうさ耳が並んでいた。
どうやらまた寝ている最中に抱きつき癖が出たらしく、その際、私の首に巻きつけていた腕を引き寄せたらしい。
と、いっても私の顔が引き寄せられたというより、ミツキがずり上がってきたような状態みたいだが、息苦しかったのはミツキの手が巻き付いていたからか。
あと片腕もミツキのずり上がった身体の下敷きになっていたので、その背中から手を回すように腕を抜き出し、なんとか首を締めているほうの腕だけを引き剥がして、その手首を持ったままミツキの腰あたりで固定する。
もう片方の腕は案の定、サナに巻き取られるように抱えられている。
二人共、体温が高く、風呂場に備え付けのボディーシャンプーの香りがするので、風呂上がりで身体が温かいうちに布団に潜り込んできたのだろう。
私自身も二人のマッサージのせいか血行が良くなっているようで、少し体温が高いような気がする。
つまり、そんな状態で3人川の字、いや、むしろ一体になっているので数字の1の字で寝ていたものだから布団の中に熱がこもっていたようだ。
がっちり巻き込まれているサナ側の腕と違って少し自由の効くミツキ側の腕を伸ばし、掛け布団をパタパタと動かし、中の空気を軽く入れ替えると、本人たちも汗をかいていたのかサナとミツキの体臭が混じった独特の匂いがする。
特にミツキは暑がりなのか、寝間着代わりに着ている肌襦袢が、ちょっとしっとりしているような気がするな。
って、肌襦袢?
あー、私が先に寝てしまったから、今晩は寝間着の類を出していないんだ。
下着や外着は店で買ってあるものの、ずっとラブホテルのバスローブを使っていた関係で寝間着は買っていなかったのだ。
結果的に鬼族の種族衣装は肌襦袢込みだったので寝間着代わりに使ったのだろうが、なんなら起こしてくれても良かったのに。
「ん、ん、ん…」
そんな事を考えていると、サナが胸元にほっぺたを擦り付けてきた。
起こしてしまったかな?と一瞬思ったが、別にそんなこともなく、幸せそうな顔で寝息を立てている。
その寝息につられるようにあくびが出て、改めて睡魔が襲ってくる。
起こさないように気を使って貰ったらしいから、お言葉に甘えて、改めてこのまま寝てしまおう。
空気を入れ替えたお陰で少し温度も落ち着いたことだし、改めて二人の体温を感じながら眠りについた。
▽▽▽▽▽
正直なところ、翌朝はまた二人がかりで『起こされる』のを覚悟していたのだが、目を開けたときには二人の姿はなく、布団に残り香があるだけだった。
どうやら二人の『何かしてあげたい欲』は昨夜のマッサージで満たされていたようだ。
いや、部屋の外からうっすらと香るお味噌汁の匂いからすると、マッサージと朝食で、合わせて一本と、いったところだろうか?
そんな事を考えていると、廊下の方からパタパタと足音が聞こえてきたかと思うと、スッと音をたて片引き戸が開く。
「お父さん、起きてる?」
「寝てるよ。」
とっさに布団に潜り込み返事を返すと「じゃあ、朝ごはん出来ているから起きてー。」と、サナに布団の上からゆさゆさと揺らされる。
「ふぁ、サナおはよう。」
身体を起こし、改めてあくびと万歳するように伸びをしてサナに挨拶をする。
「おはようございます。お父さん。」
その明らかな隙に胸に飛び込んでくるサナ。
両手を私の背中というか腰に回し、身体を預けるように密着しながら、そういって猫のように頬ずりしてくる。
「朝ごはん出来てますよ?」
頬ずりというか匂い付けが満足したのか、身体を起こし、ちょっと小首を傾げ、笑顔でそういうサナ。
畜生、朝から可愛いな。
「今日の朝ごはんは何?」
「えーとねー…」
そんな感じのサナとの朝のスキンシップは、「もう二人とも、ご飯よそっちゃったッスよ!?」と、業を煮やしたミツキが乗り込んでくるまで続いた。
サナです。
昨日はお父さんが寝ちゃった後、ミツキちゃんと2人でお風呂に入って、またお布団に戻って来ました。
あたしは肌襦袢で寝るのは慣れてますけど、ミツキちゃんはなんとなく落ち着かないみたいです。
次回、第三七七話 「今日の予定」
浴衣の時もそうだったけど、おっぱいがこぼれないか心配しているみたい。




