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第三六七話 「マミ・タケキリ」


 「先日は当社に護摩壇を御寄贈いただきー誠に有難うございましたー。」


 マミさんは独特の訛りがあるイントネーションでそういって、またもや頭を下げる。


 「護摩壇…ってことはマミさんは西本社の関係者なんスか?」


 ちょうど向かいに座っているミツキが身を乗り出しながらそう聞くと、マミさんは袖で口元を隠しながらコロコロと、隣のロマは、がっはっはと大口で笑い出した。


 「関係者もなにも、この権僧正ごんのそうじょうマミ・タケキリがこの街の西本社のヌシだぞ?」


 「主だなんてー、また適当なことをー。確かに拙僧が西本社の住職を務めさせていただいておりますがー。」


 「権僧正ってどれくらい偉いんでしょう?」

 「『お西さん』だと僧位で最上位、僧官で上から3番目の和尚さん、つまり先生ですね。」


 サナの問いにサオリさんが答えると、サナとミツキが凄い凄いとマミさんを褒めたたえはじめた。

 お西さんというのは西本社の愛称なのかな?


 相手が偉い人だと分かっていても、2人がかしこまる方向にならなかったのは、マミさんから漂う、柔らかな雰囲気と、サオリさんの先生という説明のせいなのかもしれない。


 元僧兵であるサオリさんからすれば用語的には確かに先生や師匠という意味だが、たしか和尚自体は人々に実際に接して教えを説く僧侶という意味じゃなかったかな?


 「マミ権僧正におかれましては…」

 「やめてくださいー、今はロマさんの古馴染み、ただのマミですー。」


 サオリさんのかしこまった物言いにマミさんが両手で待ったをかける。


 「じゃあ、マミ先生?」

 「あははー、じゃーそれくらいでー。」


 でもサナの呼び方は気に入ったらしく開いた両手を喉元で合わせ、パンパンと叩いて笑っている。


 明るい人だな。

 小学校の保険医の先生とか、小児科の先生みたいな印象というか、慈愛に満ちた雰囲気がある。


 「はいはいはい、混んできたから、ここに置いておくわよー。」

 器用に3枚の大皿を運んできた、おかみさんが、そういってテーブルの上に料理を置いていく。


 「おかみさん、お久しぶりです。」

 それをサナが手伝いながら挨拶をすると、ウインクをして調理場の方に戻っていった。

 「あたし、ちょっとだけ手伝ってきます。」

 「はい、いってらっしゃい。」


 「サナちゃんは、おかみさんに懐いているみたいですねー。」

 「この街に来てから、何かとお世話になりましたので。」


 「なるほどー。で、そのサナちゃんも、それからミツキちゃんも被害者だったとー。」


 にこやかな笑みのまま、表情も変えずにそういうマミさん。

 と、いうことは…


 「前に手紙で書いたろう。信頼できる少数精鋭で事に当たると。」

 そういってロマが、いつのまにか空になったジョッキで机をコンコンと鳴らした。



▽▽▽▽▽



 それはそうとして、話の前に、まずは飯だというロマの一存で夕食となった。


 これから真面目な話になるのだからお酒は…とは思ったが、すでにジョッキ一杯飲んで勢いのついているロマに逆らえるわけもなく、久しぶりに清酒『鬼盛り』を飲むのに付き合っている。


 それにしても


 「あー、久しぶりに飲むと美味しいですねー。」


 和尚さん、普通にお酒飲んでるな。


 「お酒に関する戒律とかないものなんですか?」

 ふと、気になってマミ先生に聞いてみる。


 「神様は何も禁止してませんよー。あれは人が勝手に駄目だといっているのですー。」

 え?戒律はあるのに飲んでいるということなのか?それ。


 「酒を飲んだら信仰がゆらぎー、異性に会えば信仰がゆらぎー、清く正しく生きねば信仰がゆらぐとー、自分がそうだから他の者もそうだと思いこむ愚者がー、さも自分の言葉をーそして弱さをー神様の言葉のように押し付けているだけですー。」


 辛辣だ!

 その、ぽややんとした顔から出てくる言葉とは思えない内容にびっくりした。


 「そんな事をいうから教会と喧嘩になるんだぞ?」

 「まー新教会だとー、怒るでしょーねー。」


 呆れたような顔のロマにも動せず、くぴくぴとコップを傾けるマミ先生。


 「『御神酒上がらぬ神は無し』とも言うっしょ?うちも西も基本的に飲酒は禁止していないよ。」


 え?今の誰?


 サオリです。


 伝統的にというか慣習的に西本社は尼が、東本社は巫女がやしろを取り仕切るのが習わしになっています。


 もちろん、だからといって、西に巫女がいないわけでも、東に尼がいないわけでもありません。


 次回、第三六八話 「東本社」


 どちらも同じ地母神様を信仰していますしね。

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