第三五九話 「留守番」
ダルラの服に付けた血液を通して淫魔法【盗聴】で奴ら二人の会話を自分だけ片手間に聞きながらミツキとの夕食を楽しんだあと、少し早めにレストランを後にした。
腕にはミツキが幸せそうに巻き付いている。
「美味しかったッスー、あんな料理初めて食べたッスー。」
「あはは、楽しんで貰えたなら良かった。」
カルツとダルラの会話はミツキを曇らすには十分な話だったので早めに席を移動したのだが、どうやらそれは正解だったようだ。
すっかりミツキの機嫌が直っており、それどころか豪華な料理と大人っぽい雰囲気、そして少しのアルコールに酔ったようでミツキは柔らかな笑みを浮かべていた。
「パパ。」
「なに?」
つぃつぃと肩口を引かれ改めてミツキの方を見ると、ちょっと首をかしげたような眼鏡越しの上目遣いと目が合った。
「今日はデート楽しかったッス。」
「嫌な思いもさせてしまってごめんね。」
その言葉に、ふるふると首を振るミツキ。
そして私の腕から離れ、両手をそっと私の頬に添えた。
「今更お礼になるか分からないッスけど…」
はにかんだようにちょっと俯き、でも愛おしくてたまらないというような柔らかな笑みで向き直り、背伸びして唇を重ねるミツキ。
柔らかな感触が通り過ぎ、後には自分の唇に人差し指を添えるミツキの笑顔が残る。
「大好きッス、パパ。今日はありがとうッス。」
そんなキスのお礼で今日のデートは幕を閉じた。
▽▽▽▽▽
「ただいまッスー!」
「ただいまー。」
一瞬、間があったあと、パタパタという足音についで扉が開き、サナが顔を見せる。
「おかえりなさい。お父さん、ミツキちゃん。」
「サナちー、ただいまッスー!」
出迎えてくれたサナにミツキが抱きつき、そのままクルクル回るようにして部屋に戻って行く。
ご機嫌でテンション高いなミツキ。
「らぶらぶでーとだった?」
「ラブラブだったッスー。サナちーのおかげッス!ありがとうッス!」
「きゃー」
抱きついて、ほっぺたにキスの嵐を降らしてくるミツキから逃れられずにサナが身を捩る。
ホント仲いいな。
「レン君、おかえりなさい。今日のデートはいかがでしたか?」
「あはは、色々頑張りました。あとで二人にも成果を報告しますね。」
テーブルの方からのサオリさんの声に振り返ると、どうやら二人はまだ食事中だったようだ。
ちょっと覗いてみたが、どうやら雑煮と焼き餅を食べていたようだ。
サオリさん、ほんと餅好きだよな。
「あら?のろけ話を聞かされるのかしら?」
「そっちの成果じゃないですよ。」
クスクスと笑うサオリさん。
あ、そうだ、忘れる前に。
「ミツキ、借りた本、ここに置いておくよ。」
「はいッスー。」
声をかけるとサナにおぶさるような格好でミツキが近寄って来た。
まだじゃれついているらしい。
「あ、パパ、お願いがあるッス。」
「なに?」
「髪の毛、元に戻して欲しいッス。慣れないせいか、首元が蒸れて…」
「どれ。」
おぶさる格好のミツキに更におぶさるような格好で抱きつき、ミツキの髪の毛を鼻でかき分け、うなじの匂いを嗅ぐ。
「うん、ミツキの匂いがする。」
「当たり前ッスよ!恥ずかしいから匂い嗅がないで欲しいッス。」
「お父さん、あたしも、あたしも。」
ミツキの首の横をすり抜け、今度はサナのサラサラの髪の毛の間に鼻を埋めた。
「うん、サナも良い匂いがするね。」
「思ったッスけど、パパってわりと匂いフェチッスよね?」
「そう?」
「そういわれれば、わたしも匂い嗅がれること多いような気もするわね。」
一口齧った焼き餅を手にしているサオリさんまで、そんな事を言われた。
サオリです。
地元じゃお餅は年に2回くらいしかつかないので、食べる機会が少なく、街で売っているを見ると、ついつい買ってしまいます。
焼いたものも美味しいですけど、雑煮も良いですね。
次回、第三六○話 「レンの作戦」
(ただいまッスー!)
あら、ミツキちゃん、早かったわね。
ちゃんとレン君に可愛がって貰えたのかしら?




