第三十五話 「赤鬼族」
声をかけてきたのはプロレスラーを二回りくらい大きくしたような体型の男で、レザー系の装備の上にブレストプレートをつけており、軽戦士風の装いだ。
と、いっても全然物理的に軽くなさそうだが。
手甲は脱いでテーブルの上に置いているが金属で補強が入っているし、脚絆も同じような造りになっている。
座っている向こう側には大振りの十字槍が立てかけてあるので槍使いなのだろう。
歳は30代前半くらい、短髪とともに短く揃えた顎鬚もそうだがなにより頭から伸びた2本の角と、ニカッと笑った口から覗く牙が印象的だ。
いかにも鬼族という雰囲気の男。
いや、どうせ座るならサナは同族の近くの方が良いだろうと思って近くに座ったのだが、まさか声をかけられるとまでは思わなかった。
「いや、すまんすまん、奇妙な二人連れだと思って見てたんでな。つい」
そういってその鬼族の男は自分の顎鬚を撫でる。
「鬼族の種族衣装を着て鬼族語を話す黄人族と、角を隠して人族のふりをしている小鬼族の二人連れなんてのは、同じ鬼族から見れば奇妙なコンビに見えてな。」
そういって男は片手で拝むような真似をする。
どうやら謝っているつもりらしい。
「いえ、全然気にしてませんよ。えーと…」
「ロマだ。見ての通り赤鬼族だよ。」
そういってロマと名乗った男は自分の赤黒い角をコンコンと人差し指で叩く。
「人族のレンです。こっちは白鬼族のサナ。」
ロマと握手をし、サナはペコリとお辞儀をした。
「おお、小鬼族ではなかったか。それは重ねてスマン。しかし小鬼族なら絶世の美女扱いだったろうに勿体ない。」
小鬼族の基準だとそうらしい。
種族によって好みが色々あるんだな。
「うちのサナはカワイイ系なんですよ。」
「ほうほう、新しい親父殿はめっきり親馬鹿ではないか。」
そういったロマと一緒に笑う。
事実なのに。
「で、その親子がそんな恰好でなぜここに?同族のよしみだ何か事情があるなら力になるぞ?」
武器も防具も持たない親子連れが探索者ギルドに二人きりで。というのは、やはり違和感があるらしい。
ズイと身を乗り出してくるロマに対しサナと顔を合わせるとウンと頷いたので少しだけ事情を話すことにした。
詳しくは言えないが。と、断った上で、人さらいに合った後、奴隷として売られたサナを譲り受け、奴隷から解放して故郷に帰そうとしているところだが土地感もないため、この街で情報を集めるとともに迷宮で路銀を貯める予定だということを端的に説明した。
ロマはわりと表情豊かで、攫われた話や奴隷として売られた話を聞くと鬼のような顔で(いや実際鬼なのだが)怒りを露わにし、奴隷から解放するという話や故郷に帰そうという話の時からは腕を組み目を瞑ってウンウンと頷いている。
あと、親子ではなく今は亡きサナの義父に似ているのでお父さんと呼ばれている事を話すと「え?そうなの?」という言葉が聞こえてきそうなくらいポカンとしていた。
体格もデカくて強面の髭面なのにその表情の豊かさであまり怖さを感じない。
なんというか良い人感が漂っている。
「なるほど。嬢ちゃんが攫われたのはどこの街だ?」
「ウシトラの町です。」
サナが答える。
「ウシトラ温泉街か、しばらく行ってないな。あそこは鮎と山菜が美味いんだ。」
ロマは懐かしそうに天井を見上げながらそう言った。
「ここからは大分遠いのですか?」
「遠い。そうだな、ちょっと二人ともこっちの席に来い。」
ロマが自分が座っている六人掛けのテーブルの上に並ぶ食器類や籠手をガチャガチャと端に寄せながら手招きするので、食べかけの皿とカップ類を持ってそちらのテーブルに移動する。




