第三五八話 「需要と供給」
「パ、パパもカッコいいッスよ?」
「ありがとう。」
ランプの炎で赤いのか照れて赤いのか分からない状態のミツキの背後に、高そうなお酒を銀盆に乗せたウエイターがスッと滑るようにカルツ達の席に向かって行くのが見えたので、淫スキル【夜這い】を使って夜目を追加するとともに、淫魔法【盗撮】と【盗聴】で視覚と聴覚を強化する。
酒が入れば何かと奴らの口も滑るようになるだろう。
ミツキも私が誘拐団に注目していることを察したようで、そのうさ耳で聞き耳を立てているようだ。
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「で、旦那、案の定売れ残りやしたが、次はどっちへ?」
「他人事のように言っているがなダルラ、残ったのはほとんどお前が見立てた獣のほうだぞ?」
「猫と槍は旦那の見立てでしょうに。」
「猫はしょうがあるまい。司祭様が失脚されていたのは想定外だ。」
「前の白猫の番になるような雌猫を一匹。でしたっけ?雌同士で番とは俺には理解できませんな。」
「僕にはお前の獣趣味だって理解できないがな。まあ良い、どの道エグザルで捌けるだろう。」
「あ、やっぱりそっちで。」
「2つの迷宮の関係で獣も多いことだし、槍もここよりは需要があるだろう。」
「否定はしやせんがね。てっきりまたあのババアに会いに行くためかと。」
「カレルラ様にババアとは失礼な。」
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なんか、意外な名前が出てきたな。
向かいに座っているミツキも動揺を隠しきれない様子で目でこっちに何かを訴えかけている。
ミツキが元買われた娼館「リューリュ」の店主カレルラが誘拐団のバックだとしたら、ちょっと勝てる気がしないがダルラの口ぶりからするとそうではないだろう。
そのまま聞き耳を立てていると、どうやら娼婦時代のカレルラがカルツの初めての相手だった様子だ。
年齢的にはカレルラはおそらく40歳を超えているくらい、カルツは36歳なので、何年前かは知らないが、年上の妖艶なお姉さんに手ほどきを受けたのがカレルラにハマるきっかけになったのだろう。
カルツ自体は金髪碧眼、海外の映画俳優のような美男子なので、仮に20年前とすれば、若いカレルラとともに結構夢と需要がありそうな話だな。
カルツはアラフォーの今だって、どこかの王子だと言われたら信じてしまいそうな美丈夫だし、若い時はさぞかし美少年だったろう。
ちなみにそれでいうとダルラは体格こそ大きいものの、ギーグタイプの東洋人みたいな外見をしている。
ケモナーだと言われても、ああ、そうだろうね。と、納得してしまいそうな雰囲気がなんとなくある。
亜人族はケモナーの分類なのかどうかは別にしてだ。
ダルラとの会話から察するに、カルツはかつて大聖神国街の教会付きの【神官騎士】で、初の遠征場所のエグザルにて『悪い遊び』を覚え、それ以来、機会があるたびカレルラに会いに行くのだが、大体、袖にされるらしい。
カルツが【神官騎士】なら、ダルラの方が隷属魔法の使い手なのかな?
ビンゴ。
淫スキル【性病検査】で人物鑑定すると【隷属魔術師】と出た。
わりと直球の職業名だな。
話しぶりからすると、奴隷商としての資格や能力はダルラが持っているが、誘拐団のリーダーはあくまでカルツらしい。
ちなみにカルツは今でもレベル32の【神官騎士】だ。
ジェリーナもそうだったが、レベルと年齢差が相場より離れていないので、大聖神国街には、いやその街の教会には特別なレベル育成システムがあるのかもしれない。
どの道、カルツの話はカレルラに聞いた方が早そうだ。
どうも誘拐団を指揮しているというより、コネを使うためにリーダーとして祭り上げられているような印象を受ける。
状況や能力的に注視するべきはダルラの方だし、そこさえ押さえれば誘拐団も瓦解しそうな感じがする。
いや、一網打尽にするつもりだから、今瓦解されても困るのだが。
今思えば尾行に必死で奴隷を運んでいた残りの2人に【性病検査】を使って職業を確認しておかなかったのが悔やまれるな。
ダルラがメインで間違いないとは思うが、誘拐団がこの街を出るタイミングを見計らって他の奴らも人物鑑定しておこう。
酒が入っていくうちにカルツはともかくダルラがこの高級レストランにそぐわない大声を上げるようになってきたので、これ幸いとウェイターに話をして別の席を用意して貰った。
とりあえず誘拐団の次の行き先も分かったことだし、せっかくの豪華な料理が出てくるのだから、この後は、おめかししたミツキと食事を楽しむことにしよう。
サナです。
お父さんから晩御飯はミツキちゃんと食べて帰るって念話が来たので、今晩はお母さんと2人でご飯です。
せっかくだから、お母さんの好物で揃えちゃおうかな?
第三五九話 「留守番」
お母さん、晩御飯なにがいい?
もう、なんでもいいっていうのが一番困るの。




