第三十四話 「お父さん」
「ところでサナ、ブダってどんな食べ物?」
「えーとですね…」
興味深くテーブルの上の調味料や小さな籠に入ったナイフやフォークなどの食器を確かめていたサナの説明によると、どうやらブドウのような果物らしい。
山林にも似たような果物が生えるのでサナにとっても馴染みのある果物だそうな。
ハズレじゃなさそうなのでラッキーだ。
そうこうするうちに料理が運ばれてくる。
デカい。
コンビニのサンドイッチ的なものを想像していたら、小ぶりのフランスパンを真っ二つにして更に上下に開き、そこにレタス風の野菜や玉ねぎを思わせるみじん切りの白い野菜とともにローストビーフを挟んだものが2つ出てきた。
片方は2㎝弱くらいに厚く切られたローストビーフが挟まれており、もう片方は薄くスライスしたローストビーフが何枚も挟んである。
あとはティーカップに紅茶が、木製のコップに紫っぽい色のジュースが注がれている。
たしかにコップの方からはブドウっぽい臭いがする。
食器籠からナイフとフォークを取り出し、それぞれを先に半分に切っておき、とりあえず肉が堅そうなので厚切りの方と紅茶を自分に、薄切りの方とジュースをサナに振り分けた。
「「いただきます」」
たまたま似たような風習があるのか二人で同時に手を合わせる。
サナの方は指先が前後に少しずれているので違うといえば違うのだが。
「これ、どうやって食べればいいんでしょう?」
「手で持って食べるしかないんじゃないか?」
右手で紅茶を一口飲んだあと、左手でローストビーフサンドを掴む。
どうでもいいけどこの紅茶、ちょっと烏龍茶っぽい風味がする。
そのまま齧り付いてみたがパンは堅めだが思ったよりも肉が柔らかい。
そこに甘めのソースがわりと合い、野菜も味が濃く新鮮だ。
こりゃアタリだったな。
「からい…」
両手で持った薄切りの方のローストビーフサンドを食べていたサナから声が上がった。
なんか仕草がリスというかハムスターっぽい。
サンドの方をみると中に黄色の粒入りのソースが入っていたようだ。
マスタードソース的なやつなのかな?それはそれで美味そうだが。
「どれ…」
右手でサナの両手ごとサンドを掴み、一口食べさせて貰う。
うん、ちょっと塩気が強いがマスタードっぽいソースだ。
酒が欲しくなるような美味さだな。
「サナ、こっち食べてごらん。」
左手に持った厚切りの方のサンドをサナの口に近づけると、なんかアワアワしてる。
「はい、あーん。」
「あ、あーん。」
一瞬ためらった後、サナがその小さな口を開ける。
開けた口から見える八重歯がかわいい。
鬼族だから牙かもしれんが。
サナは一口食べると右手を口にあてモグモグしている。
思ったよりガッツリいったしな。
「あ、美味しい。お肉も思ったより柔らかいですね。」
「口に合うようならサナはそっち食べな。多すぎたら残してもいいから。」
そういってサナとサンドの皿を交換する。
「お父さんいいんですか?こっちの厚い方をお父さん食べたかったんじゃ?」
「肉が堅そうに見えたので厚い方選んだだけだから大丈夫。お父さんはそっちの辛い方が好みの味だし。」
サナの手から食べかけの薄切りの方のサンドを貰い齧り付くと、サナが一瞬驚いた顔をした。
なにかあったか?
「えへへ」
「ん?」
「お父さん、自分の事、お父さんっていってますよ。」
両手を足の間に挟み、小首をかしげならがらはにかむような笑顔のサナがいた。
「あ、つい、つられて。」
「嬉しいです、お父さん。」
「ああ家族になりたて。って奴か。」
ちょっと照れてしまった所にいきなり近くの席で鳥の丸焼きを食べていた客から声をかけられた。




