第三三五話 「挟撃」
この女、さっきの男と槍筋は似ているが、アイツより段違いに早く巧みで、何より独特の間があってやりづらい。
いや、認めよう。
この女、強い。
これだけ俺の剣を躱し続けた奴はそういない。
さっきの男と鬼族の女が中隊長クラスなら、おそらくこの女は俺と同じ大隊長クラス。
耳の形からみると亜人族のようだから『新教』の手のものということはないだろうが、おそらくどこかの国の特殊部隊だろう。
いくら亜人族が人族より若く見えるからといって、この若さでこの強さは異常だ。
姫様の力は、いや、『勇者召喚のための血筋』はどの国でも喉から手が出るほど欲しいはず。
だからこそ、姫様の身を新教に渡し、これ以上奴らに力を与えることを危惧される殿下のお気持ちは軍事的にも理解できる。
だからこそ中隊長クラスを連れてでも俺が姫様の身柄を確保しに来たのだが、これほどの邪魔が入るとは想定外だ。
手加減できる相手ではない。
もう殺す。
そして信号弾を撃つ。
トルイリに駐留している部隊も使うことになるが、もう時間がない。
この一撃で決める。
相手の受け流しの力をも利用した『双突・真摯』
さっきの男と同じように身体を反らして躱そうとした女の胸から顎を通し、頭蓋をも貫く。
はずだった。
突きによって革鎧を切り裂き、弾けるように双丘が顕になった女の口元で俺の剣が止まった。
いや、止められた。
いつのまにか女の手には槍は無く、両手で外側から胸を押さえるようにして胸の間で俺の長剣を挟み、止めている。
違うな。
流石にそんなことで止まるほど俺の『双突・真摯』甘くない。
間合いを外された。
外した上で伸び切った突きを胸で挟み、抑えているのだろう。
分からん。
そんな事が出来る事も、する意味も分からない。
困惑して剣を引くのが一瞬遅れたところ、女が切っ先をその口に咥え……そして俺は何故か気絶した。
△△△△△
『疑似』という言葉がある。
日本語としては、本物に似て紛らわしい。とか、真似をする。というような意味だ。
「見立てて」という表現の仕方もあるだろう。
そしてこの言葉はアダルト用語としても使われる。
小隊長と打ち合いをしている時、槍に種族スキル【男根のメタファー】で付与しておいた能力は、同じく【男根のメタファー】。
このスキルで相手の長剣をその身体の一部扱いにし、文字通り男根に見立てる。
そして鋭く研ぎ澄まされた相手の2撃目の突きが迫った。
この突きに対して使うスキルは
危険感知であり、その軌道も分かる淫スキル【マゾヒスト】
回避行動のための当然のスキル【回避】
槍を消して素手での行動のため、スキル【格闘】
淫魔ランクに応じてボーナスを得る種族スキル【フェロモン】
相手の長剣を胸で挟むため、スキル【精技】
そして精技の成功率を淫魔ランクに応じて上げる種族スキル【テクニシャン】
それらのスキルの重ねがけの上、サオリさんやミツキからの度重なる実地経験から、この『疑似パイズリ』は完全成功を果たした。
相手の突きは装備のみを切り裂き、伸び切った長剣はこの小麦色の豊かな胸の間で止められ、頭の位置を少し変えるだけで、その切っ先に唇が届く。
長剣という男根に見立てた相手の身体の一部、その切っ先を唇で咥え、舌で舐めあげるようにして種族特性【ドレイン】
粘膜からの吸収攻撃、いわば【真・ドレイン】が相手の魔力、精力、そして体力を根こそぎ奪い去る。
いやいや待て待て、殺しちゃ駄目だ。
体力だけはちょっとだけ残しておこう。
危険な試みではあったが、これでも保険は掛けてあった。
『疑似パイズリ』が失敗しても『疑似フェラ』で止めるつもりだったのだ。
さすがにいきなり口で相手の突きを咥えるほどの度胸は無い。
>スキル【双突】をドレインしました。
お、久しぶりのスキルドレインだ。
サナです。
サーシャちゃん、いえ、御姫様が怯えているので、ミツキちゃんには馬車の中に入って貰いました。
お母さんもまだ緊張しているみたいだけど、もう大丈夫だと思うな。
次回、第三三六話 「帰還」
だってこっちの方が危険なら、お父さんがあたし達を送り出すはず無いんだもの。




