第三三二話 「夕日」
「厄介な結界魔法だな。」
その厄介な【金剛結界】を足場に、また箱馬車の天井に戻るあんたの機動力の方が厄介だよ。
「せい!」
天井でにらみ合う私達を尻目に、馬車の荷台から飛び降り、下からすくい上げるように相手の馬車の荷台にいる魔術師を狙うサオリさん。
しかし、その薙刀は天井から荷台に降りてきた小隊長の長剣に阻まれる。
その隙に小隊長ごと魔術師を貫くつもりでの槍を使ったダイビング刺突。
それも片手で魔術師を抱えながらバックステップで躱す小隊長。
機動力が厄介だ。と、思っているときに、横薙ぎに2人を両断するべく振るわれるサオリさんの追撃。
でもそれも小隊長の長剣で受けられる。
どうやら魔術師の方は片手で間合いの外にぶん投げたようだ。
サオリさんのあの一撃を片手で受けるのかよ。
間髪いれずに、槍での攻撃を重ねるが、これは長剣で受けずに躱された。
馬車からなるべく小隊長を離したいのだが、おそらく一足飛びであろう距離を維持されている気がする。
「援護はどうした!」
「こうッスか?」
魔術師に檄を飛ばした小隊長の死角からミツキの投げナイフが襲いかかる。
その数4本。
1本を長剣で弾き、1本を避け、残りの2本を肩の装甲と手甲で受け、体制が崩れたところに、長剣と反対側からのサオリさんの切り上げ。
これもバックステップで躱されたが、距離を稼げただけで十分だ。
ミツキがこっちを攻撃してきたということは…よし、小隊長と距離があるうちにサナとミツキが魔法で眠らした魔術師と御者台に乗っていた騎士を淫魔法【睡眠姦】と【緊縛の心得】で無力化する。
魔術師には猿ぐつわ付きだ。
>ダラム・ライデンの【双突】
魔法をかけるために目をそらした一瞬を狙い、小隊長が飛び込んできた。
スキル【槍術】と【回避】を全力で使い、1撃目を受け流し、2撃目を躱す。
つもりだった。
胸から顎の先までを切り裂かれ、派手に血しぶきが舞う。
1撃目が重く、受け流すために足が止まったところに心臓狙いの2撃目。
とっさに仰け反って躱そうとしたものの、一瞬間に合わず胸の装甲どころか身体を1センチほどの深さで一直線に切られている。
元々はオークレザーとはいえ、淫魔法【コスチュームプレイ】で出したため、実質魔法のレザーアーマーと防刃性能もあるアンダーウェアの組み合わせを、まるで紙のように切り裂いた小隊長の腕の長剣。
喉まで切り裂かれなかっただけラッキーだ。
ミツキとサオリさんの悲鳴が上がり、サナの回復魔法が飛んでくる。
魔法の効果発動と同時に血を目潰し代わりにして、小隊長に、突き2連からスキル【格闘】を使っての回し蹴り。
かろうじて当たった回し蹴りもキッチリガードされている。
強い。
「私も加勢に!」
ジェリーナの声が上がるが、御者であるジェリーナがもしもやられたら、それこそ詰む。
御姫様も馬車もジェリーナも護るために冷静に馬車の側で待機しているサナが頼もしい。
あ、物理耐性強化の魔法も飛んできた。
「ジェリーナさんは馬を繋ぎ変えて2頭でも走れるように準備してください。
ミツキも手伝って!」
「了解ッス!」
「それはさせる訳にはいかないな。」
「それをさせる訳にはいかないな。を、させる訳にはいかないんだよ!」
スキル【槍術】と【格闘】と【回避】を組み合わせた中国拳法のような動きで小隊長に挑む。
トリッキーな攻撃なためか、槍単品よりはガードさせられることができ、その隙に合わせてサオリさんの薙刀が縦横無尽に振るわれる。
それを時には避け、時には肩や手甲の装甲で受け流し、時にはカウンターで長剣を振るってくる小隊長は文字通り格上の相手だ。
合間合間でかけている淫魔法【精力回復】やスキル【絶倫】でスタミナを確保しながら手数で攻めて相手の攻撃を封じているものの、このままでは膠着状態だ。
というか、このペースなら魔力切れの方が先かもしれない。
日が落ちて淫魔の身体になれれば、まだワンチャンありそうだが、まだ夕日が赤々と辺りを照らしている。
…膠着状態?
『馬車を出せる状態になったら、全員乗ってトルイリの街へ向かえ!
そう遠くないところまで騎士団が戻ってきてる。
これは時間稼ぎだ。』
『パパは?!』
『私は馬車が十分な距離を取れるまでここに残る。』
サナです。
御者の人も眠らせたし、お父さんの回復も間に合ったし、まだちゃんとお仕事できてます。
護られるだけの自分じゃなくて、今日はお父さんを、みんなを護らなきゃ!
次回、第三三三話 「信頼」
あ、そうか、なら心配しなくても大丈夫そう。




