第三二六話 「サルトの町」
先が尖った丸太の塀と門を越えサルトの町の門に入る。
門をくぐる前までは、まるで砦だなと思っていたが、中に入った印象としては、大型キャンプ場だ。
中央に大きな集会場のような大きなログハウスがあり、その東側にログハウス街が、西側には大きな池があり、それを囲むように小さめのバンガローやいくつかのテントが並んでいる。
たぶん、西側は野営が出来るようなスペースになっているのだろう。
淫魔法【夜遊び情報誌】で確認すると、東側のログハウス街は中央から宿屋街、商店街、一般住居、職人街、倉庫街というような順で4つに切ったバウムクーヘンの層のように並んでいる。
ちなみに西側の奥の方には小さいながらも娼館が何軒かあるようだ。
広さ的にはエグザルの東区、探索者用の施設街より一回り小さいくらいで、倉庫の感じから林業や炭作りが盛んな町のようだ。
今の時間はお昼前くらいで、箱馬車は東側の宿野街に進み、一階が駐車場ならぬ駐馬車場になっている一際大きくて高級そうなログハウスへ入っていく。
御姫様のように人目につきたくない身分の高い人たちが使う高級ホテルのような扱いだとは分かっているのだけども、ぶっちゃけラブホみたいなシステムだ。
とはいえ、馬の世話もログハウスの人がやってくれるし、休憩用の個室も用意してくれるようで、そこでは食事も可能らしい。
「だがお前は駄目だ。」
はいはい。知ってた。
ジェリーナに当たり前のように同席を断られたので、一人サルトの町の警戒に当たろう。
ちなみに女性陣はサオリさんやミツキがサナの話を馬車で御姫様にしたらしく、これまた興味を持たれ、全員仲良くご同席ということになっている。
王族との女子会風ランチタイムというのは、それはそれで貴重な体験だから良いだろう。と、私と一緒に御飯を食べるという女性陣を送り、サナが持たせてくれたお弁当を片手にログハウスを後にする。
とりあえず向かうのは町の中央にある大型のログハウスだ。
1階はそれこそ集会場のようになっており、フードコートみたいな感じで食堂や酒場も並んでいる。
2階に上がると、同じくパーテーションで区切られた集会所のような空間と、横になれるような簡易休憩所も併設されており、更に3階まであがると、そこは展望台のような空間が広がっていた。
と、いっても部屋になってガラスの窓があって、そこから外が見える。というのではなく、端的にいえば屋上だ。
申し訳程度に木柵で囲われており、町を一望とはいかないまでも、かなり見晴らしが良い。
東側の奥に一本の煙が上がっているのは、炭でも焼いているのだろうか?
3階には更に物見櫓があり、もう2階分くらい上の高さから町を眺められそうだが、ここは関係者しか入れないスペースらしい。
町に入る前に見えていた砦の塔みたいな施設はこれだったんだな。
▽▽▽▽▽
「警戒に当たろう。なんて思って出てきたが、一人ひとり調べるには人多すぎて無理だなこれ。」
淫魔法【夜遊び情報誌】で出したマップを閉じ、残りのおにぎりを口に放り込む。
ちょこちょこと周りの人に聞いてみたところ、本格的に混み合うのは1時過ぎくらいらしい。
エグザルの街から、また、トルイリの街からこのサルトに着く人が多いのがその時間以降なのだそうだ。
これでも昨日エグザル行きの馬車団が出たばかりなので、今は人は少ないほうだと串に刺したヤマメのような焼き魚を売っていたおばちゃんが教えてくれた。
それで来る道はエグザル行きの人たちとすれ違わなかったんだな。
ジェリーナが1時前には出発すると言っていたのは人混みを避ける意味もあるのだろう。
人が増えればそれだけ御姫様を狙う奴らがいる可能性が増えるだろうから当然だ。
とはいえ、昼間の町で襲うくらいなら町の外で襲うと思うがな。
外で多数とすれ違うというのも危険性はありそうだが、どうせすれ違うのなら安全度が高い町の側で。という考えもあるのだろう。
とりあえず、トルイリ側の北門から出て、先のマップを再チェックしておくか。
▽▽▽▽▽
「…さすがにちょっと不自然じゃないか?」
トルイリに向かう林道から少し外れた森の中に人がいる。
一人ならなんとも思わないが、トルイリの近くの湖までの間に合計3人。
しかも、ほぼ等間隔にいる。
見張りか伝令といったところだろうか?
その湖の近くにも前には居なかった集団が増えている。
湖の西側にいた集団はそのままいるので、それとはまた別の団体のようだ。
決戦は湖の前になりそうだなこれ。
ミツキッス。
サナちーがパパ成分不足でフニャフニャしてるッス。
パパのことだから、午後はサナちーとパパが一緒の組み合わせになると思うッスけど、予想以上に御姫様がサナちーに懐いてるんスよね。
次回、第三二六話 「伝令」
これ、もしかして御姫様、見た目からサナちーが自分と同い年くらいだと思われてるんじゃないッスかね?




