第三一四話 「船」
「明日の朝、ホウマ方面への船が出るそうですよ?」
「どれくらいかかるんですか?」
「早朝にここルーオイを出て夕方前にあちら側の港町、カリーに着くそうです。」
飲み物が売っているのが、というか酒が売っているのが漁港方面だったそうで、サオリさんがそんな情報を仕入れてきてくれた。
そのカリーという港町から、ここルーオイ、そしてナイラ王朝の西側の先端に近いところにある島を2つ寄って、先端のワナイという港町にいく航路が往復定期航路なのだそうだ。
これ先にマップ手に入れていなかったら位置関係さっぱりだな。
カリーからホウマの街までは馬車で3時間ほどだというので、エグザルの街にとってのルーオイみたいな立ち位置の港町なんだろう。
ちなみに、逆にホウマからカリーまでは、大きな河を船で下れるらしく、もっと早く着くらしい。
船といっても基本は貨物船で、船客が乗れるのは大きな雑魚寝部屋が一つと、2名用の個室と4名用の個室が少しあるだけだそうな。
「ホウマの街は、ちょっと行っておきたいですね。」
誘拐犯達が向かうかもしれない街にショートカットを作っておければ、かなり有利に立ち回れそうだ。
「明日の朝に、お船に乗るの?」
「えー、もっと海で遊びたかったッスー。」
サナから箸を受け取り、隣に陣取っているミツキに回す。
「別にびっしり船に乗って無くても大丈夫だと思うよ?
個室さえ取れれば、あとはカリーに着く時間までショートカットでこっちに戻っていてもいいんだから。」
「あ、そっか。あ、お父さん、そっちの貝、そろそろ食べごろですよ。」
「なるほどッスね。それならアタシも賛成ッス。」
淫魔法【ラブホテル】は基本的に扉に掛ける魔法なので、船内の個室の扉にかけることさえ出来れば、そこにいつものように別空間の部屋が出来るし、その部屋は今まで開けた扉に繋がっているので、そういう芸当も出来るはずだ。
それにしても、つぼ焼きうめー。
ツブともサザエともつかない巻き貝だが、醤油の風味と磯の香りが効いている。
竹の楊枝で中身を取り出して齧り、サオリさんの買ってきてくれた清酒をあおる。
今度はミツキの勧めてくれた焼きウニをつつきながら、また一口。
そこにサオリさんがお酌をしてくれる。
たまらないなこれは。
「とりあえず明日は早起きして、船の部屋が取れるか確認からだな。
あ、サオリさんもどうぞ。」
「はい、いただきます。」
サオリさんの持つ陶器のぐい呑に清酒を注ぐ。
なんでもこの町には有名な酒蔵があるらしく、そこでお酒を買ったらサービスしてくれたそうだ。
美人は得だな。
というか、ロマがよく飲んでいる清酒『鬼盛り』が、そこの酒蔵のお酒で、運営しているのもサオリさんと同じ白鬼族をはじめとした鬼族らしいので、そのせいもあるのだろう。
今回のお酒は鬼盛りのように高い酒ではないが、食べるものに合わせてお店の人に選んで貰ったらしい。
そのせいか、非常に海産物に合う。
サナが作ってくれた刺し身とも相性抜群だ。
そのサナ達が飲んでいるのは、いつぞやも飲んだシードルのような飲み口の林檎酒だ。
こちらはその酒蔵が提携しているカリー方面の酒蔵からの輸入物らしい。
あちら側は果物の生産が盛んなのかな?
前にロマが買ってきた『鬼渡り』という焼酎も同じ酒蔵製らしい。
たしか麦焼酎だったはずだから、果物だけじゃなく穀倉地帯が近いのかもしれない。
さっき手に入れたネローネ帝国のマップによると、ホウマをほぼ中心として大きな平野が広がっており、ホウマの南側にもサロウという大きな街があるので、農業が盛んな場所なんだろうな。
ちなみに手に入れたマップもナイラ王朝のマップと同じく、2とナンバリングが振ってあった。
全体マップの北から1/3、その中央くらいにホウマの街があり、弓を描くように西側にヒツシプの街、東側にミスネルの街がある。
ナイラ王朝、ネローネ帝国、両方のマップを手に入れたせいか、繋げて両方同時に表示出来るようになったので、ナイラ王朝の北側、イノラの街からネローネ帝国、ミスネルまでが、文字通り時計の時間のように配置されているのが良く分かる。
そして、その内側である大聖神国街側の国境も、やはり円を描くように区切られているのも。
ナスカの地上絵でもあるまいし、いや、それ以上の大きさでこんな大きな円を描き、それを国境に出来るなんていうのは、ちょっと技術的に考えられない。
カルデラか、クレーターなのか?とも、一瞬思ったが、それにしても大きすぎるな。
ま、それは今考えてもしょうがない。
この感じだと、恐らくその中心に大聖神国街があるだろうから、ホウマから誘拐犯達のいる方向と距離を調べれば、どの街に向かっているかが明らかになるはずだ。
西に向かっていれば、トルイリの街、北の方向で離れていってるならネネの街、近づいて来てるならホウマに向かっていることになる。
方向に関してはエグザルの街からでも予想は出来るが、南側に抜けてきた時に待ち伏せが出来るようになるので、ホウマに向かうことを優先しよう。
サナです。
海も楽しいけど、お船も楽しみです。
どっちを楽しめばいいか迷っちゃいますね。
次回、第三一五話 「漁火」
あ、お父さん、そっちのも食べごろですよ?




