第三○七話 「星空」
ふと視界を夜空からバンガローの方に移すと、片付けものが終わったのかサナが両手を伸ばしながら恐る恐るこちらに歩いてくるのが見えた。
何をしてるのだろう?と、一瞬思ったが、張ってある結界を隠匿モードにしているので、こちらの位置がわからないのだろう。
サナからすれば、暗闇の中で結界を文字通り手探りで進んでいる状態だ。
ちょっと動作が可愛くて見ていて面白いが、若干方向が違っているので、最悪結界に引っかからないかもしれない。
それはちょっと可愛そうなので迎えにいこう。
「きゃ!」
丁度結界の縁を歩くようにしていたサナを、横から抱きかかえるように捕まえると、小さな声を出した。
「あ、お父さん。迎えに来てくれたの?」
嬉しそうに胸に顔を擦り付けてくるサナ。
「あのままの方向だと、テントまで戻れなさそうだったからね。」
そんなサナの頭を角ごと撫でる。
「ありがとうございます。あ!」
「ん?」
下から見上げるように私の顔を見ていたサナの視線が、ちょっと逸れる。
その視線を追いかけるように夜空を見上げるが、月と星しか見えない。
「何か見えた?」
「うん、流れ星。」
サナを後ろから抱き直し、改めて二人で夜空を見上げる。
田舎に住んでいたころを思い出させる一面の星空と、その中を流れる天の川。
そしてその中に浮かぶ月は元の世界と同じ表情を見せていた。
この世界に召喚されて、初めての夜に見た時と同じ様な星空。
違うところといえば、三日月の向きが反対になっているくらいか。
「初めて迷宮から外に出られた時の事を思い出しますね。」
サナがこちらを見ずにそういう。
どうやら同じことを思い出していたらしい。
淫スキル【淫魔】と淫魔法【コスチュームプレイ】を使って当時の格好を再現してみた。
「えへへ。ご主人さま。」
後ろから抱きしめている腕を両手で捕まえるようにサナが握ってくる。
「もうあれも3週間も前の事なのね。」
「早いですねー。」
そのまま二人でボーッと夜空を眺めていると、また流れ星が一つ降ってきた。
これだけ周りが暗くて何もなければ、15分も眺めていれば一個くらい見つけられても不思議ではない。
とはいえ、寝転がって全天を見ているわけではないので、こんな短時間で視界内に降ってくるというのは中々サービスがいい。
「何か願い事はした?」
「願い事?」
こっちの世界には流れ星に願い事をする習慣は無いんだな。
「私が元いた世界では、流れ星が落ちる前に3回願い事を唱えると、その願いが叶うってジンクスがあるのよ。」
「そうなんですか。」
サナにそう説明してみたが、意外と食いついてこなかった。
「ご主人さまは何か願い事するんですか?」
「いや、特に無いわね。」
「あたしもです。流れ星にお願いしなくても、全部ご主人さまが叶えてくれますから。」
そういって微笑むサナ。
ああ、そうか、サナにとって自分の願いというのはそういうものなんだ。
「あ、違う…」
ふと気づいたような声を上げるサナに合わせるように種族特性【トランスセクシュアル】で男の身体に戻る。
「えへへ、うん。全部、お父さんが叶えてくれたから。」
「これからもよろしくね、サナ。」
「うん。お父さん。」
幸せそうな笑顔でそういうサナをそっと抱きしめた。
▽▽▽▽▽
「少し肌寒くなって来たね。」
「そうですか?温かいですよ?」
まぁ、サナは、ほぼほぼ私に抱きしめられている状態なので、そうだろうが、少し風が出てきたので、いつもの作務衣の格好だと少し寒い。
もう一個くらい流れ星を待ってみようかと思ったが、今晩はこれくらいにしておこう。
「みんなが心配していたら困るから、一度テントに戻ろうか。」
「はい。」
サナを胸の中から開放し、その肩を抱き直すと、サナはまるで二人三脚をするように、その腕を腰に回してきた。
サナとの二人三脚か。
いつの間にか人も足も増えたな。
そんな事を考えながら、サオリさんたちの待つテントへと向かった。
サナです。
今でもたまに、お父さんが、あたしのお父さんになってくれた時の事を夢に見ます。
今、こうしてお父さんが一緒にいてくれるのなら、これ以上何かを願うのは欲張りな事だと思うんです。
次回、 第三○八話 「全裸」
お父さんがいて、ミツキちゃんがいて、お母さんがいて、あたし幸せです。




