第二九○話 「健全な朝」
チュチュチュ
「(お父さん起きて)」チュ
ん?
「(お父さん起きて)」チュ
なんか頬がくすぐったい。
「(お父さん起きて)」チューッ
今度は唇に…?
寝ぼけ眼を開けると、目の前にはサナの瞳があった。
嬉しそうにニコニコとしたサナの表情が朝起きて一番最初に見る風景というのは中々オツなものだ。
気分がいいので人差し指を一本立てておかわりをお願いすると、目を細めたサナが再度唇におはようのチューをしてくれた。
「おはようございます。」
「おはよう、サナ。最高の目覚ましだったよ。」
「えへへー。」
私の顔の両脇に置いてあるサナの両手を掴み、ミツキを起こさないようにそっとベッドから抜け出した。
そのままサナを抱き寄せ、その頭の両角に口づける。
ん?サナはまだお風呂前っぽいな。
なんだかんだで、今はみんな朝風呂の習慣がついてしまっており、サナは普段、朝ご飯を炊いている間に入るようなことを前に言ってたような気がする。
魔力コンロは釜と違って火の番をしなくていいのが楽なのはもちろん、火の元を離れられるのが凄い便利だと熱く語っていた。
文明開化感があるな。
「サナ、ちょっと魔法使うから、ごめんね。」
「はい。」
猫のように擦り寄ってくるサナをちょっとだけ離し、淫魔法【盗撮】と【盗聴】を使ってアリシア達パーティーの様子を見る。
「ん?もう朝市抜けるところだな。」
「随分早いですね。」
「サナの言った通り、迷宮に早く入って早く出るタイプみたいだね。それじゃ先に接触してくるよ。」
「はい、お父さんいってらっしゃい。」
そういってサナは頬にいってらっしゃいのチューをしてくれた。
娘のそんな送り出しの後に女を買いに行くのだから罪深い。
▽▽▽▽▽
「おいくらですか?」
アリシアを見ながらパーティーのリーダーらしい重戦士(ダンソンだっけな?)に声をかける。
レベルは27、歳は34歳。
戦闘職は年齢の2/3くらいが一般的なレベルの目安らしいから結構強い方なのだろう。
「なんだおめえは?」
「ダンソンさんの所で同業者を抱けるって聞きましてね。」
「ちょ、お前。」
ダンソンに肩を抱かれ、迷宮入り口受付前の隅の方に連れて行かれた。
一応人に聞かれたらマズイ話ではあるらしい。
じゃあ強気で行ってみよう。
「誰から聞いた?」
「それは言えないですが、銀糸亭で売ってると聞いてますよ?
それなら私もご相伴に預かりたいと思いまして。」
「チッ、吹かしでは無いみたいだな。ショートか?ロングか?」
「ショートで十分です。」
昨日の様子だと、ロングというのが多分1時間半、ショートがどれくらいかは分からないが、実際にするわけじゃないから大丈夫だろう。
「なら10銀貨で先払いだ。今すぐ貸してやるからドヤに連れ込んでさっさとやってこい。
その代わり、この事は他に広めるなよ?」
「分かりました。」
広めはしないが、必要に応じてロマさんには報告しよう。
ダンソンはアリシアに指示を出すと仲間と一緒に探索者ギルドの方に向かっていった。
どうやら依頼をチェックしたり酒を飲みながら時間を潰すことにしたらしい。
後には硬い表情をしたアリシアだけが残されている。
「アリシアさん、ちなみにショートってどれくらいの長さですか?」
「40分よ。短いんだから、さっさとしたら?」
「じゃ、ドヤに部屋取ってますからそちらに移動しましょう。」
「朝っぱらからヤル気満々じゃない。嫌らしい。」
アリシアが心底軽蔑したような目でこちらを見ている。
いや、今日の朝はいつになく健全な方だったよ?
「考えすぎです。ドヤを拠点にしてるので借りっ放しなだけですよ。」
「どうだか。」
こりゃかなり男性不信を拗らせているな。
当然といえば当然なんだが。
サオリです。
朝、サナに一緒にレン君を起こしに行こうと誘われたのですが、あの、恥ずかしくて…。
前にミツキちゃんに聞きましたが、朝から二人がかりで、その、するんでしょう?
次回、第二九一話 「接触再び」
え?違うの?




