第二八八話 「ケチャップ」
ほら。
案の定だ。
ベッドの上では気絶した三人がサオリさんを中心に重なり合うようにして横たわっている。
全力や諸々を出せて私も凄いスッキリしている。
って、ちがーう。
売春こそさせていないが、『レベル上げ』のためでもないのに、こんな調子じゃアリシアのパーティーメンバーの事、言えないな。
「…違いますよ?お父さんは、あんな人達とは違い、あたし達のためにしてくれてるんですから。」
「…そうッスよ?アタシ達は望んでパパと一緒にいるんスから、一緒にしたら怒るッスよ?」
声がした方を見ると、息も絶え絶えのサナとミツキがそう言って微笑んでいた。
「だからそんな顔しちゃ駄目です…。」
「でも、今回のはちょっと刺激強すぎたッスね。」
パタンと音がするような勢いでミツキとサナがベッドに突っ伏したので、その二人の頭を両手で撫で、そのまま、おでこにキスをする。
「ありがとう。二人にはいつも救われてばかりだな。」
「えへへー。お父さん大好き。」
「アタシだってパパの事、大好きッス!…でも今は動けないッスー。」
「夜市で何かご飯買ってくるから、しばらく休んでていいよ。」
「はいっすぅー…」
「うー、晩ごはんも作りたかったのに…。」
▽▽▽▽▽
「あら、一人とは珍しいわね。逃げられたの?」
人聞きの悪い。
おかみさんはいたずらっ子のような顔でニヤニヤとしている。
こういう表情が若い印象を与えるんだよな、この鬼。
実際には何歳か分からないのだが。
「授法の儀式明けで疲れているみたいなので、お留守番してもらってるんですよ。」
嘘は言ってない。と、思う。
「ふーん、レベルも順調に上がってるみたいね。メニューはまたお任せで?」
「そうですね…あの、ケチャップ使った料理とかあります?」
「ケチャップ?あるわよ?どうして?」
「サナがケチャップ料理を覚えたそうにしていたので。」
「なるほどね。いいわよ、何品か作ってあげる。」
そう言っておかみさんはウインクをする。
「よろしくお願いします。」
▽▽▽▽▽
「これ全部けちゃっぷ料理なんですか?」
「すごーい、美味しそう。」
「今日はケチャップづくしッスね。」
テーブルの上にはナポリタンっぽいパスタをはじめとして、ポークチャップ、エビのケチャップ炒め、鶏肉と玉ねぎのケチャップ炒め、あとは小ぶりのピザのような食べ物が並んでいる。
「時間があればケチャップ煮っていうのもあるらしいよ?
あとケチャップの作り方も聞いてきた。」
「お父さん、ありがとう!」
抱きついてくるサナの頭を軽く撫で、早速遅めの夕食を取ることにした。
▽▽▽▽▽
「明日はやはり迷宮で依頼消化ですか?」
「朝にロマさんに会えれば情報交換もですね。
アリシアさんの名前は教えておいた方がロマさんも動きやすいと思いますし。」
って、サオリさん、口元ケチャップついてる。
ちょっとかわいい。
「受付に伝言も出来るんでしたっけ?」
「あー、会えなかったらそうしておこうかな。」
サナは鶏肉と玉ねぎのケチャップ炒めが気に入ったらしい。
鶏肉好きだものな。
「あっちのパーティーの監視はもういいんスか?」
「アリシアさん関係の情報は大体入ったし、特にパーティー自体には用はないからね。
びっしりじゃなくても、たまに見るくらいで大丈夫だと思うよ。
迷宮から上がったのを見計らって声をかけるくらいかな?」
「了解ッス。」
ミツキはわりとパスタ好きなので、ナポリタンをおかわりしているが、思いついたようにこちらを見つめ直した。
「パパ、わざわざパーティーに接触しなくても、今日の方法で魔法の発動条件は満たせないッスか?」
サナです!
けちゃっぷ料理は、今度、夜市のおかみさんに聞いてこようと思ってたら、先にお父さんが聞いてきてくれました。
いきなり作って驚かせる楽しみはなくなっちゃったけど、あたしの事、考えて聞いてきてくれたんだと思うと嬉しいです。
次回、第二八九話 「心と身体」
炒めものは簡単そうで美味しいけど、煮物もいつか試してみたいな。




