第二八三話 「商品と獲物」
「あ、またお父さんキョロキョロしてる。」
「パパ、自分だけで調べないでアタシ達にも見えるようにしてくれた方が探すの速いッスよ?」
淫魔法【夜遊び情報誌】を使っていたらサナとミツキにそう指摘された。
二人には私が魔法やメニューから何かをしてるのが仕草で分かるようだ。
たぶん、目線だけ動いていて気持ち悪い状態なのだろう。
ミツキの指摘ももっともなので、特性【ビジュアライズ】でデカイポスターくらいの大きさで街の様子を表示すると、サナとミツキが、少し遅れてサオリさんが覗き込んできた。
「今表示してるのは、街のガイドマップみたいなもので、店で売っている商品も表示されるんだ。」
「そういえば、ミツキちゃんもこの地図で見つけたんだよ?」
「そうなんスか?あー、奴隷も売りものに含まれるんスね?」
流石ミツキは聡い。
ついでにいうと、魔法の名前に相応しく売春ものも表示されるのだ。
「この街で女性が売られているなら、奴隷か娼館か探索者だろう?この地図には先の2つは表示されるから、一回それで探してみよう。」
「なるほど、わかりました。」
「了解ッス!」
「はい!」
▽▽▽▽▽
「いないッスね。」
「うん。」
「あまり気にしてなかったけど、南区の宿の方にも、『そういうお店』あったのね。」
まぁ、奴隷商はともかく娼館の方は、女性からすると注目するような施設でもないし、性の選択権が女性側にある種族のサオリさんからすれば、根本的なところで意義のわからない施設なのだろう。
「ロマさんの言ってたように探索者のパーティーに買われたんでしょうか?」
「そうなると、もう売りものじゃなくなるから、この地図には表示されませんね。」
サオリさんの問いに答えつつ、一回特性【ビジュアライズ】を解除する。
「それじゃあもう見つけられないんスか?」
「あれ?でも迷宮で前に開いた地図にはロマさんとか表示されてましたよ?」
そうなのだ。
淫魔法【夜遊び情報誌】は迷宮内だと入り口付近の屋台の商品はもちろん、サナの指摘どおり他の探索者やモンスターも表示される。
たぶん、『売りもの』ではないものの、『獲物』として認識して表示しているのだろう。
この辺りの匙加減は良くわからないが、淫魔法【夜遊び情報誌】はその『獲物』の表示もするらしく、本当はどうあれ、街中ではともかく迷宮内では探索者も『獲物』にしてもいいと、淫魔法【夜遊び情報誌】自体か、その魔法を司る上位存在がそう認識しているのだろう。
「迷宮内だと迷宮獣だけじゃなく、探索者も表示されるんだよ。」
ちなみに迷宮獣という呼び名は一部の亜人族で使う迷宮内のモンスターを差す方言だそうな。
「って事は、少なくてもこの街の中では奴隷と娼婦の線が消えたから、次はアレシアさんが探索者になってないか迷宮内で探すってことッスね?」
「でも、大変そうですね。それ。」
「そうでもないですよ?
新迷宮は各階層ごとに部屋の魔法で拠点作ってますし、旧迷宮も私一人の時に同じ様に拠点作ってありますから、移動して階層ごとにさっきと同じく地図確認で大丈夫だと思います。
ロマさんが言っていたとおりシルバーの探索者達に買われたなら、迷宮内にいたとしても、その拠点がある階層の範囲内でしょうから。」
そもそも、うちらのパーティーは探索者ランクに比べどころか、そのレベルに比べ、実際に狩りをしている階層は相当高いらしい。
勇者の力というか、淫魔の力様々だ。
「このお部屋から階段のそばの部屋に出て調べるって感じなのかな?」
「探索者が絶対通る1階を見張るってのも考えたッスけど、一回各階層で探しておいたほうが効率良さそうッスね。」
淫魔のチートに慣れている分、娘二人は理解が速い。
「そうだね、各階層に行ったり来たり程度だから最初は一人でやるつもりだったけど、さっきの街の地図みたいに皆で探したほうが速そうだから、付き合って貰えるかい?」
「わかりました。」
「了解ッス!」
「あ、お父さん、あたしはお昼ご飯の用意しててもいい?」
「ああ、もうそんな時間か、3人も居れば大丈夫だから、サナはそっちを頼むよ。」
「はい。ロマさん、お昼の分の串物も食べちゃったから新しくお昼ご飯用意しなきゃ。」
こういう所、サナは頼もしいな。
▽▽▽▽▽
「新迷宮の上から順にチェックしていこう。」
「流石にこの高階層にはいないッスね。」
「シルバーの、しかも1パーティーじゃ普通、この階は自殺行為ですからね?」
▽▽▽▽▽
「新迷宮と、それから1階にはいないみたいですねぇ。」
「前に迷宮資料室で見たッスけど、旧迷宮の方がモンスターのレベル差が少なくて狩りやすいらしいッスよ?」
「奴隷を買えるほど安定収入があるなら、ある程度ベテランのシルバーだろうから、もうちょっと旧迷宮の下の階層かな?」
サオリです。
レン君のこの能力は凄いですね。
レン君と先に会えていれば、サナを見つけ出すのももっと早かったかも…。
次回、第二八四話 「奴隷の探索者」
でも、それだとわたし、レン君を怖がってしまってたかもしれません。




