第二七八話 「新興勢力」
「人さらいの新興勢力か…。人の出入りが多くて、むしろ人を攫いやすいネネの街やホウマの街での活動を避けてる辺りも、それっぽいな。
あそこはあそこで大きな犯罪組織があるとも聞いているから、そっち方面のトラブルを避けているのだろう。」
えーと、ネネの街は時計の針でいうと12時の位置にある街だっけか?
イマイチ地名がピンと来ていないのが表情に出たのか、ロマが改めてサナ達が通ったルートを解説してくれた。
ロマの話によると、おそらく人さらい達は、時計の針でいうと2時の位置にあるトラージの街か、その手前のトジウルの町から人を攫いはじめ、1時の位置で隷属の魔法をかけ、12時の位置のネネの街から中央の大聖神国街経由で6時の位置のホウマの街へ。
その後、7時の位置のヒツシプを経由して、ここエグザルの街というルートを通ったのだろう。との事だ。
「攫われた残りの奴隷が売られたのは状況的に大聖神国街で3人、ヒツシプで2人だろうな、手の込んだことしやがって。」
ロマが腕を組んで深い息をする。
「手の込んだって、どういう意味ですか?」
サナが不思議そうに首を傾けながら素直にそう聞いてくる。
「国境ッスよ。アサーキ共和国内で攫って、独立国の大聖神国街、ネローネ帝国内、ナイラ王朝とそれぞれ別の国で売ってるッス。
国境を跨いでいるから追われづらい。って感じッスかね?」
ミツキが面白くないように解説してくれた。
そういや前にもギルドの所属国の話をしてくれたっけ。
話を総合すると、今いる8時の位置のエグザルから11時の位置のイノラまでがナイラ王朝の所属。
5時のミスネルから7時のヒツシプまでがネローネ帝国の所属。
って、あの王子様、他国の領地まで来て何やってくれてんだ。
それから1時のウルーシから4時のタツルギがアサーキ共和国。
12時のネネと中央の大聖神国街が大教会の直轄地ということだな。
出身でいうと、サナとサオリさんがアサーキ共和国出身。
ミツキがネローネ帝国出身。
ロマがナイラ王朝出身らしい。
とはいえ、サナ達の里は隠れ里らしいのでアサーキ共和国に所属している意識はないそうだ。
ウシトラ温泉街の近くにはアサーキ共和国の亜人族を中心とした自治区があるので、ロマは最初サナをそこの出身だと思っていたらしい。
「そうなると、たぶん次は9時の位置のトルイリの街を越えてからまた攫い始め、12時のネネから南下、大聖神国街と5時の位置のミスネル、2時の位置のトラージ周辺で売って、またそこから攫い始める。っていうルートでしょうか?」
効率を考えると、こんな感じのルートだろうか?
「ここエグザルと次のルイエで攫って、トルイリから3時のウルキへ抜け、タツルギとミスネルで売るってルートもありえるな。
その場合だと、後は6時のホウマから12時のネネに抜けて11時のイノラや10時のドイルで売るルートだろう。」
つまり広範囲の上、ルートがいろいろありうるので追いかけるのは難しいということだ。
「これ、見つけられるかしら…。」
サオリさんも力なくそう呟いている。
「ママさん、考え方ッスよ。奴隷の出入りを考えると、国境のここエグザルは奴らにとっても要所の一つのハズッス。
となりのトルイリでは縄張りの関係で動けないなら、ここで攫うか売るかする率は他の街よりは高いと思うッスよ?」
「待ち伏せが現実的か。」
ミツキの意見を聞いて、そうロマが顎髭を撫でながら呟く。
「攫うなら騒ぎになりづらい探索者や旅行者でしょうか?」
「季節労働者ってパターンもあるッスよ?アタシがそうでしたもん。」
ミツキのいた孤児院はウシトラ温泉街の繁忙期には出稼ぎに行かせて資金を稼いでるらしい。
「ふむ、姐さんのことは抜かしても思ったより大事だ、ギルドマスターにも相談してみるとしよう。
国境を跨いでいるなら追いかけるのは無理でも、来るとわかっていれば網の張りようはある。」
ロマの中ではなんとなく方針が決まったようだ。
「レン、お前確かレベル20越えていたよな?」
「え?レベルの話したことありましたっけ?」
レベルが急激に上がるのは目立つと思い、レベルの話はしてなかったはずだ。
「新規登録の探索者がレベル20を越えてたら連絡が来るんだよ。
他所で強くなってからこの街に来た奴は、うちのギルドの即戦力になるか、トラブルメーカーになるかどっちかだからな。」
あー、そういうことか。
それだと、なんとなくシルバー以上になったときにも連絡行きそうだな。
バレているなら話してしまおう。
「はい。私だけじゃなく、全員越えてますよ?」
「全員?!サオリは分からないでもないが、サナやミツキもか?…そういやハーピー狩りをしてたなら、それなりの実力はあるのか…。
それなら話は早い、先を考えると迷宮内以外でのギルドの依頼を受けられるようにしておいた方がいいだろうから、シルバーへの紹介状を書いてやろう。
俺のだけで足りなければギルドマスターにも頼んでおくから、お前らはとりあえず依頼をなるべく多く達成させて体裁だけ整えておけ。」
と、いうことは、いずれシルバーへの依頼として人さらい探しが始まるということだな。
ミツキッス。
土地勘や街の知識のないパパとサナちーが同じ顔してロマさんの話聞いてるのがツボに入って笑うのを堪えるの大変だったッス。
次回、第二七九話 「3人目」
いや、それこそ笑い事じゃない話の内容なんスけどね?




