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第二七四話 「湯呑」


 「お父さん、お茶どうぞ。」

 「ありがとう、サナ。」

 「なんか、珍しい光景ですね。」


 珍しい光景というのは、長ソファーの端に私が座っており、そこにうつ伏せに膝枕というか顎枕しているミツキと、その反対側の足に肘を置き、膝を横に崩しつつ床に座っているサオリさんという図のことだろう。


 ミツキはともかく酔ってもいないのにサオリさんが自らこんなに近いのは確かに珍しいかもしれない。


 二人とも綺麗になったうさ耳と角をめっちゃアピールしつつ、お礼を言ってくるので、褒め倒していたところだ。


 正面に座っていたサナが見かねたのか昨日買った湯呑でお茶を出してくれた。

 黒地にうさぎ柄の夫婦湯呑の大きい方の湯呑だ。


 サナから受け取り、一口、口をつける。

 なにげにしゃべり過ぎてたのか喉が乾いていたのでありがたい。


 「うん、美味しい。」

 「こっちのお部屋以外でも飲めるように茶器やお茶っ葉もあったほうがいいのかなぁ。」

 サナがお盆片手にもう片方の指を顎に当てつつ、斜め上を見ながらそんなことを呟いている。


 「そうだなぁ。」

 今はお茶といえば、ラブホテル備え付きのティーバッグ頼りだしな。

 サナ的には、ご飯の後とか、こういう人心地ついたときにはお茶を出したいらしい。


 「機会があったら一セット買おうか。」

 「そうですね。」

 ニコっとサナが笑い、テーブルの上に残りの湯呑を置いていく。

 夫婦湯呑の小さい方と、花びらのような模様がワンポイント入った桜色の湯呑が2つだ。


 「はい、ミツキちゃん、お母さんもどうぞ。」


 サナの声に二人の動きが一瞬止まる。

 そういやこれ、どれが誰用の湯呑なんだろう?


 ミツキの手が、そーっと夫婦湯呑の方に伸びる。

 「あっ…」


 なぜか小さな声を上げてしまうサオリさん。

 夫婦湯呑は柄的にはミツキの物っぽいが、実は娘二人で桜色の湯呑を揃えたのだろうか?


 夫婦湯呑の方から指をピロピロと泳がし改めて桜色の湯呑を取り、座り直すミツキ。

 「お母さんは?」

 「え、えーと…。」


 サナとミツキの顔を見比べながら、なぜか悩んだ様子のサオリさんだが、結局選んだのは桜色の湯呑の方だった。


 最後に夫婦湯呑をサナが手にとって頷いた。

 「これでいい?」

 「はいッス。」

 「…はい。」


 そういって三人とも湯呑に口をつける。

 実は買ったときにはまだ誰が使うのか決めてなかったのだろうか?

 そんな事を考えながら、自分ももう一口お茶を飲む。


 「お父さん、お部屋選ぶやつ出して?」

 「ん?なんで?」

 「明日のご飯の仕込みするの。

 この部屋でしたら匂い気になっちゃうかもしれないし、夜だから、あっちの炊事場も何かあったら嫌だなと思って。」


 サナが両手で湯呑を持ちながら、そんな事を言ってきた。

 「そっか、わかったよ。何か手伝うかい?」

 「大丈夫。お父さんはこっちの部屋でゆっくりしてて。」


 特性【ビジュアライズ】でタブレット状態にした淫魔法【ラブホテル】の部屋選択画面を持ったまま、サナはそう言って風呂場の方へ向かっていった。

 いつもの通り風呂場へのドアを二つ目の部屋の入り口にするのだろう。


 そういや今日の部屋は結局サナが選んだにしてはカウンターや台所付きの部屋じゃなかったな。


 残されたミツキとサオリさんは、なぜか気まずそうに無言でお茶を飲んでいる。


 先にミツキが飲み終わったらしく元の顎枕の状態に戻ったかと思うと、サオリさんも湯呑を置き、元の体勢に戻る。


 まだ褒めたりなかったのだろうか?

 もうそろそろ語彙が無いのだけども。


 って、ミツキ!?と、いうかサオリさんまで!?

 さわさわと二人の手が滑り込んでくる。


 「あの、パパ。尻尾とうさ耳、ホントに嬉しかったッス。」

 「わたしも角が傷んでたのは本当は気にしていて、こんなに綺麗になるなんて思ってもみなくて…」


 下から見上げてくる二人の視線が熱い。


 「「だから…」」

 「お礼させて?」

 「欲しいッス。」



▽▽▽▽▽



>レンは淫魔の契りにより眷属を倒した

>30ポイントの経験値を得た


>サオリは淫魔の契りにより主を倒した

>590ポイントの経験値を得た

>ランク差ボーナスとして1,000ポイントの経験値を得た

>レベル28になった



 サオリです。

 その、恥ずかしいけど、どうしても感謝の気持ちを表したかったんだもの。

 

 次回、第二七五話 「指針」


 反撃?してきたレン君に、なんか凄いことされちゃった…。

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