第二六二話 「団欒」
「やっぱりいつもの髪型の方が可愛いね。」
「えへへー。」
「やっぱ短い方が楽ッスね。」
「あのー、レン君?なぜわたしだけこのままなの?」
「その髪型だとサナと母娘というより姉妹みたいでいいじゃないですか。」
「し…もう、今日だけですよ?」
髪型が変わって楽しい分には楽しいが、慣れない長い髪が晩御飯の準備には邪魔だというサナの意見でサナとミツキの髪型だけを戻してある。
厳密にいうと、二人とも元奴隷という売り物だった関係か、初めて会った時の髪の長さが一番魅力的に見える長さだという事に気づいて、その長さに毛先を揃え、調整してある。
なので二人はサッパリ美容院帰りみたいな雰囲気だ。
一方サオリさんは、というと、初めて会った時のサオリさんの髪は長旅のためか、かなり傷んでいたもののラブホテルのアメニティが良かったのか、栄養状態が改善されたのか、今ではツヤツヤだ。
とはいえ、どうしてもロングヘアーだと毛先が痛みやすいので、そこだけは整えておいた。
ちなみに淫魔法【トリコフェリア】で髪の毛を短くした場合、カットした扱いなのかドロップ品のカプセルの状態で切った髪の毛が手に入った。
散らからない分、便利だな。
頭が軽くなった姉妹コンビが次々とテーブルの上に晩御飯を運んでくる。
サナが、なるべく多く買った食器を使いたいというので、今日は大型のテーブルがあるこの貸しログハウスにしたのだ。
元の世界で一度使ったことがあるので勝手が分かる。
大きなテーブルがあって、居間からキッチンが直接見えなくて、温泉露天風呂付きなのは、かなりニーズに合っていると思う。
ちなみに寝室は2階で、たしかバルコニーもあったはずだ。
1階にもバーベキュー用のテラスがあるのだが、温泉露天風呂の浴槽もそのテラス上にあるのが若干変な感じがする。
それはさておき、晩御飯の方だが、まずは大皿。
これにはキャベツ(?)の千切りに左右から寄りかかるように2種類の焼いた豚肉が盛り付けてある。
片方は色も臭いも豚の生姜焼きのようだ。
もう片方は、うっすらとガーリックの臭いがするのと、赤いツブツブが見えるので別のスパイスで焼いたのだろう。
長皿にはナスの油炒めを始めとした3種の野菜料理が一口サイズで乗っている。
小鉢に入っているのは、一見ポテトサラダに見えるな。
小皿には香の物が乗せられ、木製のお椀に入っているのは、大根とわかめの味噌汁のようだ。
そしてそれぞれが選んだ茶碗に盛られているご飯は…
「栗ご飯?」
「社の近くの屋台で焼き栗が売ってたので作ってみました。」
そういってエプロンを外し、サナが席についた。
栗ご飯って焼き栗でも出来るもんなんだな。
「色々解説して欲しい気持ちはあるんだけど、この美味しそうな香りに負けそうだから、先にいただきますしちゃおう。」
「うん!」
サナが嬉しそうに頷く。
「「「「いただきます。」」」」
「…。」
「ん?あれ?ミツキ、食べないの?」
「いやー、家族ご飯。って感じッスね。」
なんだその家族ご飯って、おうちごはんじゃなくて?
「実はアタシ、こういうの憧れてたッスよ。
お揃いの食器と自分専用の食器があって、家族全員分のご飯があって、それを皆で食べる。っていうのに憧れてたッス。」
普段の明るい様子から、ついつい忘れがちなのだが、ミツキは今や天涯孤独の身だ。
元々、母親との二人暮らしの上、その母親も忙しい人だったらしいので、独りの時間が多く、こういう家族団欒の象徴みたいな風景に憧れていたんだろう。
「…そうか、サナだけじゃなく、ミツキにも喜んで貰えたようで嬉しいよ。」
「喜ぶというか…幸せッス。独りじゃないっていいッスね。」
そういってミツキが、この食卓をまるで眩しいものの様に目を細めて微笑んでいる。
確かにこの光景は、自分も求めていた、いや、自分が失ってしまった光景かもしれない。
「そうだな。サナと、ミツキと、そしてサオリさんのお陰だな。」
「お父さんのお陰ですよ?」
向かいに座っているサナが心配そうに手を伸ばしてくる。
「そうッスね。パパのお陰ッス。」
隣に座っているミツキも、そっと身を寄せてきた。
「まてまて、しんみりしているみたいに見えるかもしれないけど、幸せを噛み締めているだけだからね?
さ、せっかくの料理だ。冷める前に食べてしまおう!」
「そうですよ?サナとミツキちゃんが腕を奮った料理なんですから、温かいうちに食べてあげてください。」
優しげに見守っていたサオリさんのその一言で、晩御飯が再開した。
サナです。
髪の方はまた後で改めてお父さんにやってもらうとして、今日はお料理頑張っちゃいました!
ちょっと作りすぎたかも?
次回、第二六三話 「再会」
あたしだけじゃなくミツキちゃん作のもあるので、お父さんに喜んで貰えるといいな。




