第二五三話 「鬼の間再び」
「やはり、わたしの方は魔法も技術も追加はないようです。」
「あたしの方は、魔法が4つです。」
「サナちー凄いッスね。」
「修験者は魔法の上級職みたいなものだろうし、レベルも2つ上がってるしなぁ。」
「えっ?2つ?いつの間にッスか?」
「ミツキだって昨日からだと2つ上がってるだろ?」
「良かったね、ミツキちゃん。」
それを聞いてサオリさんがクスクスと笑っている。
まぁ、サオリさんも昨日の朝から比べれば3つ上がっている訳だが。
今はミツキの『帰依の儀式』本番前に、先に鬼の間にやってきていた。
昨日と同じようにサオリさんとサナがお参りをして氏神様のお告げを聞くと、当初の予定以上にサナが覚える魔法が増えてたので、先にサナの『授法の儀式』を済ませることにしよう。
サナが自分一人でも授法が出来るようにと、サオリさんの指導のもとサナが呪文を唱え始めた。
私の隣ではミツキがそれを見ながら兎人用の経本を開いて予習をしている。
真面目な顔をしているミツキの横顔を眺めると、眼鏡をかけているせいもあるが、異国の文学少女的な趣がある。
つり目がちの鳶色の瞳がパッチリしていて金のまつげも長く、美少女と言っても過言ではないだろう。
サナは可愛い系だが、ミツキは顔つきだけなら、どちらかというと綺麗系だ。
しゃべると可愛いんだけどな。
そんな事を考えているうちに、昨日のように光球が浮かび、サナの頭に吸い込まれていく。
「昨日の様子だと30分くらいかかるかしら?」
サナの横でサポートしていたサオリさんが戻ってきた。
サオリさんが魔法を2つ覚えた時は20分くらいかかってたので、それよりは早いと見込んでいるのだろう。
サオリさんは終わるまで昨日のように部屋を離れていてもいいといってくれたが、何かをするには中途半端な時間なので、大人しくこのまま鬼の間で待つことにした。
▽▽▽▽▽
「あ、そろそろ終わりそうッスよ!」
ミツキが壁を背に座っている私の足の間から立ち上がり、サナに近寄っていった。
普段ならサナが座る位置だが、今日は時間までミツキが座っていたのだ。
とはいえ、身体の大きさ、特に尻の大きさや座高の関係で収まりが悪く、ズルズルと下がっていき、最後には足の間に座るというより、私の胸を枕にリクライニングチェア状態だった。
そうなると、普通に自分の手を下ろすと、位置的にちょうどミツキのおっぱい辺りに手がいってしまうので、肩というか首を抱くような形で座らせていたから、一見、ダラダラいちゃいちゃしているように見えたかもしれない。
ま、これはこれでいいものだな。
「ただいまー。」
「おかえりッスー。」
「おつかれさま、サナ。」
「サナ、おかえり。」
▽▽▽▽▽
「短距離転移魔法ッスか?」
「うん。魔力が十分にある場所、たとえば迷宮とかでしか使えないんだけどね。」
「どれくらいの距離まで移動出来るものなの?」
「えーと、ここから、あの屋台くらいまでかな?」
サナが指さした屋台までだと20mくらいだろうか?
「短いッスね。」
「それ、使う機会あるのかしら?」
「いや、結構使えるとは思いますよ?」
今は社の裏門前の屋台通りの隅にあるテーブル席に座り、少し早めの昼食を取りながらサナの覚えた魔法について話しているところだ。
屋台の料理をおかずに、朝、3人が握ってくれたおにぎりを食べている。
ちなみに、ご飯粒は別につけられていなかった。
手の大きさの関係か、私に配られている3つのおにぎりの大きさがそれぞれ違うのが、ちょっと面白い。
「何に使うッスか?歩いた方が早いッスよ?」
「直接歩いて行けないところ用に使うんだよ。
たとえば迷宮の中だと、壁の向こうとか、上の階層へとか下の階層へとか。
罠や落とし穴の向こうってパターンもあるかな?」
「なるほど。」
サオリさんがおにぎりをモグモグしながら感心している。
サナの話だと、昨日も同じような魔法を覚えたのだが、それは個人の移動用で、今回のはゲートを開くような感じのものらしい。
「そう考えると便利な魔法ッスね。」
「うん。やっぱり、お父さん凄い。」
「え?」
「あたし、そこまで思いつかなかったもん。」
サナにキラキラとした目で見つめられる。
それほど大した話をしたつもりはないが、この感じだとミツキの「帰依の儀式」が終わった後、みんなで何が出来るようになったか、相談した方が良さそうだな。
ミツキッス!
なんとなくパパとの距離が近くなったような気がするッス。
次はアタシの番ッスから、頑張るッスよ!
第二五四話 「兎人の間再び」
ちなみに第一回ご飯粒会議は「今日は見送り」ということで閉幕したッス。




