第二五○話 「加減」
「あ、あの、パパから誘ってくれるのって珍しいッスよね…?」
「嫌だった?」
「ううん、いきなりだったからビックリしたッスけど、嬉しいッス。」
抱きついているミツキの頭をうさ耳ごとゆっくりと撫でる。
根本から耳先まで撫で終わった後に、ピョコンとうさ耳が元の形に戻るのが、ちょっと面白い。
「まだ兎人語のままでいいのに。」
「駄目ッスー。あれは特別ッスー。」
ミツキがプイプイとそっぽを向くが、赤く染まったうさ耳が可愛らしい。
本人曰く兎人語だと「素直になりすぎるので後から恥ずかしい。」らしい。
今朝は、単純にテンパるミツキが可愛らしく抱きたいと思ったのだが、やっぱり『レベル上げ』という大義名分を使ってしまった。
頭では理解しているものの、なかなか直ぐに割り切ることが出来ないのが人の心というものだ。
相手の反応を見ながら少しずつ慣れていこう。
逆に考えると、こうやって恐る恐る手を出すくらいがちょうどいいのかもしれない。
前にサナとミツキが私を溺れさせたいと言っていたが、逆に私は二人を、いや、サオリさんを含めて3人を肉欲には溺れさせたくないのだ。
そりゃ、どうせするなら気持ち良いに越したことは無いとは思うのだが、淫スキル【絶倫】や、アクティブスキルである【性感帯感知】はともかく、異性に対してのあらゆる行為に淫魔ランクに応じてボーナスを得る種族スキル【フェロモン】と、精技の成功率を淫魔ランクに応じて上げる種族スキル【テクニシャン】はパッシブスキルなので、どうしてもスキル【精技】に乗ってしまう。
しかもランク3のスキルにランク3で。
一般的にスキルのランク3というのが技術的にどれくらい高いのかは未確認だが、他のスキルランクから考えるに、プロレベル以上なのは間違いないだろう。
【フェロモン】や【テクニシャン】の効果が、ランク×10%アップと仮定したって、合計ならプロのテクニックの160%、段階的に乗るのなら169%の効果というのは、『快楽堕ち』の可能性だって十分ありえる。
今となっては一緒にいたいと思う3人だが、その相手が一緒にいる主な理由が万が一にでも『肉欲のため』になってしまうと寂しいのだ。
複雑な男心。
ハーレムを作ってるのならそれでもいいのかもしれないが、ごっことはいえ家族なのだから、そういう状況は不本意だ。
いや、その考えだと、相手にだけに求めさせている方が、その『肉欲のため』疑惑を自分の中で勝手に深めてしまうのではないか?
実際のところ、スキル【精技】はランク1までは手加減できるし、淫スキル【性感帯感知】を使えば、逆に過度の快楽も避けられるので、今のところ快楽堕ち問題はそこまで心配する事ではないだろう。たぶん。
【性感帯感知】は、下手に急所を外していくと焦らしている状態になって暴発することがあるのが難なのと、根本的にテンションが上がりすぎると、ついつい手加減忘れるのもあるが、発情期のサオリさんを誘うくらいの加減というか、スキンシップ過多気味にして雪崩れ込むというか、少し積極的に行ったほうがいいのだろうか?
「どう思う?」
「なんスかいきなり。」
目をパチクリしているミツキ。
そりゃそうだ。
「いや、中々自分からミツキ達を誘う踏ん切りが付かないな。って話。」
「あー、それッスか。
アタシやサナちーはもちろん、ママさんだって誘われるのは嬉しがると思うッスよ?
でも、まー、パパからすれば誘いづらいッスよねー。
大体アタシ達、4人一緒いる時間が多いし、寝るのも同じ部屋ッスから、たとえパパが『そういう気持ち』になったとしても、そのうち一人だけをそのために誘って…ってのはパパの性格からして、抵抗があるんスよね?」
「そうだな。」
さすがミツキ、兎人族は鬼族より倫理観が比較的人族に近いのもあるだろうが、よく理解してくれている。
「なら、全員一緒に誘ってくれればいいんスよ。」
「いや待て、なんでそういう結論に達した。」
「だってサナちーとアタシの二人しかいない時は、そうやって可愛がってくれたじゃないッスかー。」
う、そういやそうだ。
思い起こせば、そのために迷宮のデミオークからスキル【絶倫】を追加ドレインしに行ったくらいだった。
「それは…。」
「いや、責めてるわけじゃないッスよ?アタシだって鬼族の倫理観に抵抗がないわけじゃないッスから、パパがその辺りを気にしてるのも分かるッス。
でも、鬼族的にはオッケーらしいので、あとはパパが慣れるしかないんじゃないッスかね?」
「え?鬼族は、その、えー、団体戦とかOKなの?」
「いや、そっちじゃなく、母娘が同じ男の人の相手をする方ッス。
本人達に確認したから間違いないッス。
たとえそれが身内だったとしても問題ないどころか鬼族的には普通の事だし、血の繋がりもない、ましてや勇者であるパパなら、むしろ推奨されるくらいらしいッスよ?」
女系の亜人族は基本的に種の出処にこだわらないとは聞いていたが、まれびと信仰からすると、そういう発想になるのか。
そう考えると少し気が楽になるな。
ミツキッス!
パパから誘ってくれる気があるだけで一歩前進ッス。
アタシとサナちー的には、ママさんが合流する前くらいのイチャイチャっぷりが理想ッスね。
次回、第二五一話 「御膳立て」
でも、慣れるとパパと二人っきりのイチャイチャも良いッスね…。
癖になりそうッス。




