表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

241/979

第二四〇話 「マッサージ再び」


 「ここに来てからサナと一緒にご飯食べないの初めてだ。」

 「寂しいッスか?」

 隣の席のミツキがそういって顔を覗き込んでくる。


 「…そうだな。寂しいな。」


 この世界に来る前には、もう孤独に慣れてしまっていた。

 いや、孤独を求めていたといってもいい。


 人の愛情を、好意を、誰かに必要とされていると思うことさえ信じられなくなっていた。

 再びそれを失うのが怖くて、もう一度、失敗するのが怖くて、人との密な関わりを避けていた。


 そんな自分が素直に『寂しい』と思うなんて…。


 「本当にレン君は、サナの事が大切なのね。」

 「親馬鹿なだけですよ。サナだけじゃなく、ミツキが一緒じゃなくても寂しいと思いますよ?」


 「本当ッスか?」

 「こんな事で嘘ついったってしょうがないだろ?」

 ミツキが目を輝かして食いついてきた。


 「わたしはいなくても寂しくないなんて、レン君、冷たいです。」


 そっぽを向いてツーンとした顔をしてみせるサオリさん。

 ねたように少し尖らせた口が、いつもとのギャップで可愛らしい。


 「いや、そういう意味じゃ…。」

 「うふふ、冗談ですよ。」


 クスクスと笑い、いつものゆるふわお姉さんの笑顔に戻ってくれたので胸を撫で下ろした。


 それと同時に男が怖いサオリさんが私にこういう冗談を言えるようになるほど親密な関係になれたことを嬉しく感じてしまう。


 やしろから帰ってきた後、淫魔法【ラブホテル】の部屋のベッドにサナを寝かせ、今はミツキとサオリさんとの三人で探索者ギルドのレストランで夕食を取っているところだ。


 最初は何か買って部屋サナの様子を見ながら食べるつもりだったのだが、サオリさんが少しの時間でもサナを人の気配がないところで寝かせた方がいいとアドバイスしてくれたので、こうしてレストランまで降りてきた。


 なんでも長時間の『帰依きえの儀式』や『授法じゅほう』の後は、感覚が鋭敏になっており、警戒も強い状態になることが多いため、人の気配や物音がしない場所で休ませた方が回復が早いのだそうな。


 そんなわけでレストランで思い思いの料理を頼み、それらをシェアしながら明日の打ち合わせをしながら時間を潰している。


 とはいえ、もう遅い時間なので周りの客に酒が入ってきており、意味ありげな視線が何本もこちらのテーブルに向けられて来ている。


 「なんか落ち着かないッスね?」

 「え?何がですか?」

 「ミツキとサオリさんが美人だから周りの男に狙われているんですよ。」


 不埒な視線を向けてくる相手に向かって、殺気を込めながら睨み返す。


 若い(といっても元の自分の年齢から見ると大体が年下なのだが)やからはそれで目をそむけるが、逆にベテランっぽい探索者は意に介せず、ひらひらと手を振ってくる奴までいる。


 大体が人族で、たまに鬼族が混じっている。


 あ、忘れてた。


 淫スキル【性病検査】でサオリさんの【健康状態】をチェックすると、発情期6日目(後期)と、まだ発情期が終わってなかった。


 「サオリさん、部屋に戻りましょう。発情期の事、すっかり忘れてました。」

 向かいに座っているサオリさんの耳を借り小声でそう話しかける。


 「あら、わたしもすっかり失念してました。疲れてたのかしら…。」

 「気を張ってたんッスねー。本当にお疲れさまッス。」


 前にロマさんがやってた事に習って、近くを歩いているウエイトレスを捕まえ、テーブルの上の残り物を包んでもらうとともに、サナ用の夜食を注文して、簡易宿泊所の部屋の方まで届けてもらうように頼み、ミツキとサオリさんを連れ部屋のある2階へと向かう。

 人族の視線は無視して、一部の鬼族の視線には頭を下げておいた。

 発情期の美人、いや美鬼を人前に連れ出していた私が悪い。


 相手も私が人族なので気づかなかったのを理解してくれたのか、苦笑いをしながらシッシッと追い払うようなジェスチャーで返してきた。


 サナの事で頭がいっぱいで、すっかり忘れてた。

 これは悪いことをしたな。



▽▽▽▽▽



 「一つの扉から2つの魔法の部屋に繋げるのは出来ないんでしたっけ?」

 「そうだね。そもそも魔法の部屋の中にもう一つ魔法の部屋を作ることは出来るけど、最初から2つの部屋を作ることは出来ないみたいだ。」


 ミツキの問いにそう答える。

 なんとなく淫魔法【ラブホテル】の追加効果である『今まで開けたことがある扉に出入り口が繋がる』という現象が原因な気がする。


 少なくても今の淫魔法ランクでは出来ない。


 「どの道、包んで貰ったお料理が届くまで、この部屋からは離れられませんよ?」

 サオリさんが、顎に指を置き、小首をかしげるいつものポーズでベッドに座ってそう言った。


 「あー、そういえばそうッスね。

 じゃあ、料理が届くまで、ママさんの肩でも揉むッス。」

 「え?」


 ミツキの急な提案に驚くサオリさん。


 「あー、それはいいな。

 今日はサオリさんに任せっきりだったし、明日も頼る事になるだろうから、私もねぎらいたい。

 ミツキが肩なら、私は足でもマッサージするか。」


 「え、ええっ?!」


 ミツキと二人で手をワキワキしながらサオリさんへ近づいていく。


 サナでしゅ…。

 うーんむにゃむにゃ


 次回、第二四一話 「二人がかり」


 お父さん分が不足していましゅ…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ