第二三九話 「特別なもの」
「サナちー、中々目を覚まさないッスね…大丈夫なんスか?」
ミツキが心配そうにサナの顔を覗き込んでいる。
淫スキル【性病検査】や【ナルシスト】で調べてみても、【状態異常】の方には何もなく、【健康状態】の方に【疲労】【睡眠】になってただけなので大丈夫だろう。
ちなみに【疲労】の方は淫魔法【精力回復】を使ったらわりとあっさり治った。
これが本来の使い方なような気もするな。
あと【睡眠】の方は、まだしばらく眠り続けるらしい。
淫魔法【睡眠姦】を使った時のように時間がカウントダウンしている。
「さっき診察してみたけど、6時間くらい寝続ける以外は大丈夫そうだよ?」
背負っているサナの位置を直しながらミツキにそう答える。
サナが寝ている関係で、どうしても歩いているうちに下がってきてしまうのだ。
「それじゃ、わたしは受付に灰壺を返してきますね。」
「あ、アタシも行くッスー。」
護摩壇の燃えカスや燃え残りを入れた壺を持って社の受付に向かうサオリさんと、それについていくミツキ。
しばらくそのまま東本社の受付や西本社の受付で事後処理と明日の打合せをしている二人を眺めていた。
どうやらミツキは護摩壇を今日のうちに西本社に預けておくことにしたらしい。
サオリさんと一緒に受付の犬耳のお姉さんと何か話をしている。
犬耳のお姉さんはダークグレーのセミロングにキリッとした顔つきだ。
犬人族は東本社のはずなので、狼人族なのだろう。
何気に受付のお姉さん交代してたんだな。
気にしてなかったが、東本社の受付も巻角、巻き髪のゆるふわお姉さんに替わっていた。
あっちは羊人族なのかな?
「お待たせッス―。」
「おかえり。護摩壇預けて来たんだね。」
「使った後に寄進の手続きだと時間がかかるので、先にお願いしてきました。」
サオリさんが補足してくれた。
「凄くないッスか?この社にアタシの名前とパパの名前がずっと残るッスよ?」
「どういうこと?」
「寄進台帳に名前が残るのと、あの護摩壇にも二人の名前が彫られるんですよ。」
「ああ、なるほど。」
それこそ神社やお寺の備品によくあるやつだな。
それにしても書くんじゃなくて彫るのか。
それは時間がかかるだろうな。
「それは買ったかいがあったね。」
「はいッス!パパありがとうッス!」
ミツキは本当に嬉しそうだ。
自分がそこに生きた証が残るというのが初めてで、凄く嬉しいというような事を早口で語っていた。
ミツキがこんなに喜んでくれるなら、護摩壇様様だな。
本当に買って良かった。
▽▽▽▽▽
予定より早く終わったとはいうものの、日はとっくに暮れ、裏門前は魔法道具と思われるランプが各露店やいつの間にか増えた屋台を彩っており、探索者らしき亜人族や、逆に身なりの整った観光客らしい人たちで賑わっていた。
もうすっかり夜市状態だ。
辺りからは美味しそうな香りが漂っており、食欲をそそる。
「いい匂いッスねー。」
ミツキが鼻やうさ耳をピクピクさせながらキョロキョロとしている。
「ずいぶん屋台が増えましたね。」
つられてサオリさんも屋台を覗き込んだりしていた。
「晩御飯は、ここで食べて行ってもいいんだけど、サナが起きてから改めて皆で食べに来たいな。」
途中で買い食いをしていた私やミツキはともかく、焼き餅以来何も食べていないサオリさんはお腹が空いているだろうけども、こういう特別なものは全員揃って食べたい。
「パパ。」
「レン君。」
スススッと両側をミツキとサオリさんに挟まれる。
何か変なことを言っただろうか?
「賛成ッス。」
「はい。晩はギルドの食堂かどこかで軽く済ませてしまいましょう。」
サナを背負っているせいで私の両腕は塞がっているものの、二人が私の着ている作務衣の肘辺りを掴んで寄り添ってきた。
少々歩き辛いものの一家団欒のような感じがして心が暖かくなる。
嬉しそうなミツキの顔と柔らかな笑顔のサオリさんの顔がオレンジ色のランプの灯りに照らされる。
ああ…綺麗だな。
賑やかそうな夜市の喧騒を背に南門へと向かう。
全員揃って、この夜市に来る時が楽しみだ。
その時間はきっと、今となっては何事にも代えがたい特別なものだろうから。
ミツキッス!
パパがサナちーも一緒じゃないと嫌だって言ってくれて嬉しかったッス。
もっとパパにも思っている事、言って欲しいッスよー。
次回、第二四〇話 「マッサージ再び」
あと、パパがしたいこともいって欲しいッスねー。
あ、でも、そう考えると今日はわりと言ってくれてる方ッスね。




