第二三○話 「鬼の間」
その御神木を囲むように東西に『コ』の字を向かい合わせたような形で建物が建っている。
造り的には神社ともお寺とも取れるような雰囲気の建物だ。
御神木がある場所を内庭として、それを囲むようにそれぞれの建物に板張りの通路が伸びている。
上り口があるので、土足禁止っぽい。
今いるところは、内庭の手前、丁度その建物同士の間にある石畳の広間だ。
左右に受付があり、それぞれ巫女服を思わせる衣装を来た女性が窓から顔をのぞかせている。
東本社と書いてある建物には茶髪で頭に牛のような角のある豊満な体型の巫女さんが、西本社と書いてある方には黒髪で細身で猫耳の巫女さんがそれぞれ座っていた。
「あ、パパの好きな猫人族ッスよ?」
「レン君、そうなんですか?」
「違います。」
人聞きの悪い。
確かに前にサナがハロウィン用の黒猫コスチュームを着た時は動揺してしまったが… ん?
服を引っ張られた方を見るとサナが頭に両手の平を縦に当てて、上目遣いでこちらを見ている。
「にゃー。」
「可愛い。」
いかん、即答してしまった。
向こう側で猫耳の巫女さんが口を隠しながら笑っている。
ちなみに巫女さんは猫人族じゃなくて虎人族だそうな。
ミツキが勘違いに謝っていた。
▽▽▽▽▽
「鬼族は東本社みたいですね。」
「西本社には兎人族用の祠もあるようなので安心したッスー。」
サナとミツキが建物に貼ってある案内看板を見ながらそんな話をしている。
看板には色々な亜人族の種族名と、それに対応する祠のある部屋があることを図で示されていた。
言語は【共通大陸語】で書いてあるっぽい。
それぞれの種族言語で書いてたらスペースがいくらあっても足りないせいだろう。
東本社の方の看板には、サナ達鬼族のほか、牛人族、羊人族、山羊族、犬人族、猫人族などなど色々な種族名が書いてあって、見てるだけで面白い。
西本社の方の看板には、ミツキの兎人族のほか、獅子族、虎人族、狼人族、馬人族、などの種族名が同じように書かれている。
さっきの巫女さんじゃないが、虎人族と猫人族はどう違うんだろう?
狼人族と犬人族も別種らしいので、ベースが野生かどうかで別れているのかな?
羊人族と山羊族で別れているのは何となくわかるような気がする。
「人里に降りてくるような種族の祠は大体あるみたいですね。」
サオリさんがクスクス笑いながら話しかけてきた。
む、傍から見るとテンション高く見えたのかもしれない。
「それじゃ、レン君、まずは鬼族の祠から見に行きましょうか。」
そういって胸の前で手を合わせて、身体ごと小首を傾げるサオリさん。
相変わらずサナとはまた違った天然の可愛さがあるな、この人。
▽▽▽▽▽
「今日は、お参りですか?それとも『授法』?」
東本社の受付の牛乳いや、牛人族の巫女さんがそう聞いて来たが、授法ってなんだろう?
「お参りにに来たのですが、しばらく授法もしてなかったので、そちらもお世話になるかもしれません。
あと、祠の状態によっては帰依の儀式も考えています。」
用語に戸惑っている私のかわりに、サオリさんがスラスラと答えてくれた。
「それでしたら、鬼族の祠はこちら側からだとそう遠くもないので、一度お参りしてから、また受付に来てください。」
サナとミツキが指さしている『お布施の目安』と書かれた看板を見ると、用途と時間によって包む金額が違うらしい。
牛巫女さんに場所を教えられ、靴を脱いで先頭はサオリさんとサナ、その後ろに私とミツキという順番で板張りの通路を並んで歩いていく。
ちなみに靴は受付で渡された麻袋に入れて持ち歩くシステムだそうだ。
『牛人の間』、『羊人の間』、『山羊の間』と、それぞれの看板が掲げられている部屋の前を通り、『鬼の間』の前までやってきた。
サオリさんが部屋の障子を2回開け、中に入っていく。
どうやら二重障子になっているらしい。
縦に桟の多い障子と横に桟の多い障子の2枚だ。
続いて私とミツキが入ると、最後にサナが入って障子を閉め、閂をかけていく。
部屋の中は8畳ほどの広さがある和室といってしまった方がイメージしやすいだろう。
奥の壁の中央に大き目の仏壇のようなものがあり、左側に床の間、右側に収納スペースなのか戸が一つついている。
仏壇の前に2畳ほどの土間と石畳のスペースがあるのが和室とは違うところだな。
部屋に入ってすぐ左右の畳のスペースには寄進されたものなのか、お酒やらなにやらお供え物が積まれるように置いてある。
仏壇側の壁の上に灯戸があり、光が差し込んではいるが、さすがにちょっと暗い。
サナです。
前に猫人族みたいな格好した時、お父さん凄い褒めてくれたの思い出します。
その日は他にも色々着替えたけど、結局最後はその衣装で最後までしちゃったんだっけ。
次回、第二三一話 「兎人の間」
お父さんが喜ぶなら、またしてみようかな?




