第二一七話 「サナとキス」
そのまま抱きしめると、サナの小さい身体はいつものようにすっぽりと胸の中に収まってしまった。
右手を薄い背中に、左手を小さなお尻に添えるように抱き寄せているが、収まっているというより一体化しているようにも錯覚してしまう。
サナも首に回していた両腕を離し、今度は私の脇の下から手を回して抱きついている。
こうして抱きしめている間にも肩口にチュチュチュとキスをしているサナ。
ちょっとこういうところサオリさんに似ているかもしれない。
違う所といえば、キスだけじゃなく、たまに舐めてくるところか。
今は猫の毛づくろいのように首を舐められている。
あんまりされていると反応してしまうので、背中の手を緩めて両手をお尻の方に回すと、それを合図のようにまた首に手を回してくるサナ。
上気してほんのりと赤くなっている顔が嬉しそうな笑みを浮かべている。
「お父さん好きー。」
そういってまた頬にキスをしてくるサナ。
サナ曰く、お父さんは唇より頬へのキスの方が喜ぶらしい。
そんなつもりはなかったのだが、自然と頬が緩み、尾骨あたりから首元まで背骨を何かが走る。
たぶん、頬へのキスを純粋な好意や愛情の印として感じてしまっているのかもしれない。
唇へのキスは、いってしまえば前戯につながるキス。
愛欲や快楽を求める事につながるキスのイメージが抜けきらず、そこに不純さを連想してしまう。
もちろん、決してそんな事はないし、純粋な口づけだって当然ある。
これは性に苦労したものの被害妄想の類だろう。
だが、キスをする側からとって快楽を伴わないキスに純粋さを感じてしまうのには十分なのかもしれない。
身体じゃなく心が気持ち良いキス。
肉欲を伴わない純粋な好意や愛情を感じられるキス。
頬へのキスを、そういうものとして私は認識してしまっている様子で、要は私にとって効果が抜群らしい。
現に今、サナが愛しくてたまらなくなっている。
▽▽▽▽▽
「ちょっと、のぼせたな。」
「お父さん、お水ちょうだい?」
サナの口に淫魔法【ウェット&メッシー】で冷水を注いでやる。
私の指を咥えてその人差し指と中指の間からでる冷水を喉を鳴らしながら飲むサナ。
相変わらず背徳感のある絵面だ。
今は露天風呂に備え付けのビーチチェアーのような椅子に寝転がり涼んでいる。
と、いっても、掛け布団のようにサナが上に覆いかぶさっているので、いうほど涼しくもないのだが。
サナの好きなスキンシップ方法を一言でいうなら一体化だろう。
すっぽり腕や胸の中、とか、ピッタリ引っ付いているとか、そういう感じだ。
サオリさんがキスという『点』、ミツキが肌同士という『面』なら、サナは包むという立体的なスキンシップを好む。
ミツキが来てから気づいたが、くっついているわりに会話は少ないような気がするな。
その代り、お互いがお互いの全てを受け入れてくれる。
そんな感じの信頼感というか安心感がある。
錯覚かもしれないが、そう思わせてくれるサナに、この世界に来てから何度助けられたかわからない。
私を裏切れない奴隷というスタートでなくては、そして義理の父娘という関係でなければ、ここまでまた誰かを信じようと思う気持ちにはならなかったかもしれない。
「お父さん、何か考え事?」
水を飲んだ後、そのまま指にキスをしたり舐めたりしていたサナ心配そうに覗き込んできた。
「いや、サナに出会えて本当に良かったと思っていたとこ。」
サナはちょっと一瞬驚いた顔をしたが、すぐにえへへーと笑い
「あたしも、お父さんに会えて、こうして一緒にいられて、幸せです。」
そういって私の頭を包み込むように抱きしめた。
▽▽▽▽▽
「ただいまー!」
「おかえりッスー。」
「おかえりなさい。土鍋の方の準備、終わってるわよ。」
「ご飯の方も、さっき煮立ちはじめたとこッスよ。」
「えへへー、それじゃ、晩御飯の用意しちゃいましょー。」
壁側のテーブルに置いてあったエプロンを付け直し、テキパキと晩御飯の準備をしていくサナ。
それを見て、つつつーとこちらに近寄ってくるミツキ。
「サナちー、めっちゃご機嫌ッスね。なんかしたんスか?」
「いや、いつもどおりだよ?」
「いつもどおりイチャイチャしてた。と。」
人聞きの悪い。
でも
「そうかもしれないな。」
サナとの日常が今での自分を支えていた事は間違いない。
サオリです。
レン君と一緒の時のサナは、本当に明るく楽しそうで、こっちまで嬉しくなっちゃいます。
レン君のサナを見る目も、凄く優しいんですよね…。
次回、第二一八話 「鍋」
里にいた時より明るい顔をしているので、ちょっと責任感じちゃいます。




