第二一二話 「お風呂と勘違い」
「落ち着きましたか?」
「は、はい…。」
「それじゃ、そろそろお風呂から上がりましょうか。」
抱きしめていたサオリさんの身体を離し、座ったサオリさんを跨ぐように膝立ちしていた状態から立ち上がる。
なにげに念話の声は現在の身体依存なのでサナ達に返事をするため、元の身体に戻っていたのだ。
子どもの声だとミツキはともかくサナが不安がると思っての行動だったが、突然大人の身体に戻ったので、サオリさんはびっくりしたのか挙動がおかしい。
落ち着かなそうに立ち上がった私の顔を上目遣いで見た後、目の前の物にそっと両手を添え、先っぽに口づけた。
「え?!」
「ええっ?!そういう意味じゃ無かったんですか?」
▽▽▽▽▽
「そういうわけで、念話のために元の身体に戻ったんですよ。」
「わたし、その、勘違いして…恥ずかしい。」
どうやらご奉仕からの延長戦を望まれていると勘違いしたらしい。
恥ずかしそうに小さくなっているサオリさんの身体を拭き、バスローブを着せる。
自分の身体はいつもの淫スキル【淫魔】と種族特性【トランスセクシュアル】の繰り返しで外見リセットの上、淫魔法【コスチュームプレイ】で整えてある。
サナとミツキの前でこれをやると、ちゃんと拭かせろと怒られるがサオリさんなら大丈夫だろう。
「また時間のあるときにお願いしますよ。」
フォローの仕方を間違えている感はあるが、せっかくのサオリさんの気持ちなので、行為自体は肯定しておく。
実際、したくないといえば嘘になるしな。
「…は、はい…。」
唇に拝むように合わせた手の人差し指を当て、耳まで真っ赤にしてそう答えたサオリさんを可愛いなと思いながら、その髪の毛をドライヤーで乾かしていった。
▽▽▽▽▽
『今から部屋に入るけど、今度は大丈夫ッスか?』
ミツキから恐る恐るといった感じで私個人宛てに念話が入る。
先程の念話はミツキもやっちまった感があったようだ。
『大丈夫だよ。入っておいで。』
抱いていたサオリさんの肩を離し、向かいのソファーに座り直す。
「ただいまー。」
「ただいまッスー。」
「おかえり。」
「おかえりなさい。」
元気よく帰って来た二人をサオリさんと二人で出迎える。
「結構大きな荷物だね。」
「これッスか?」
「ちょっと奮発して、土鍋買っちゃいました。」
「荷物にはなっちゃうッスけど、パパに保管して貰えば大丈夫ッスよね?」
土鍋か。
今の人数を考えれば使う事も多そうだな。
「もちろん大丈夫だよ。」
「良かった。」
サナがホッとしたような顔をしている。
「調理はこっちの部屋でする?それとも探索者ギルドの炊事場使うかい?」
「お鍋も一度洗いたいし、お肉も切らなきゃならないので、下ごしらえまでは炊事場とあっちのお部屋を使おうかと思ってます。」
「でもその前にお風呂ッスねー。」
「え?お風呂先なの?」
「サナちーのご飯は美味しすぎて食べ過ぎちゃうッスからねー。たとえパパ相手とはいえ、膨れたお腹は見せたくないッス。」
そういや前もそんなような事いってたな。
「あたし下準備するから、ミツキちゃん先に入ってー。」
「え?サナちーが先じゃなくていいんスか?」
「うん、ミツキちゃんの方がお風呂の時間短いし、その方がいいかな?って。」
「了解ッス!お言葉に甘えるッスよー。」
この決定に私の意見の入る余地は無いらしい。
それにしてもミツキはいつもサナを一番にと立てているな。
たまには自分が自分がと言ってもいいのに。
「あー、それじゃ、お風呂行こうかミツキ。」
「はいッスー♪あ、サナちー、アレ渡して欲しいッス。」
「あ、はーい。」
サナがミツキに何か手渡しているが、こちらからだとミツキの背中の影になって見えない。
今渡すって事はお風呂で使うものなのかな?
ちょっと想像つかないが。
「今日はお母さんも手伝ってー。」
「珍しいわねぇ。わかったわ。」
サナとサオリさんが連れ立って探索者ギルドの部屋の方に出ていったので、私とミツキもお風呂場へと向かった。
サオリです。
なんかまだ顔が熱いし胸がドキドキしてるし、さっきまでレン君に抱かれてた肩もまだ温かいような気がします。
これ、本当に発情期のせいだけなのかしら?
次回、第二一三話 「ミツキとお風呂」
あまり考えすぎると、また変になっちゃうから気をつけなきゃ…。




