第二一〇話 「サオリのターン」
胡坐を解き、そのまま両方のふくらはぎをベッドから降ろすように座る位置を調整して、空いた足の間をポンポンと叩く。
「どうぞ。」
「え?そこに?」
「私が子どもの身体の時、サオリさんもそうさせてたじゃないですか。」
「え、え~。」
なんだかんだ言いながらも近くに寄って来たので手をそっと引くと緊張というより照れているのか小さくなってこちらに背を向け座ろうとするサオリさん。
安産型だから、もうちょっと足広げないと収まりが悪そうだ。
「あの、やっぱり…」
そのまま腰に抱き着くように腕を回し、足の間に座らせる。
「私によりかかってもいいですよ?」
「え?」
「遠慮しないで。」
そのまま両手を胴から両胸の下に、顎を肩に引っ掛けるようにしてサオリさんの上体を起こさせ、そのまま自分の身体に寄りかからせる。
「ん~~~お、重くないですか?」
「大丈夫ですよ。あと、凄く良い匂いがします。」
「っ!恥ずかしい…もう、レン君、今日は意地悪です。」
サオリさんはちょっと拗ねたようにそっぽを向いた。
その動きで更にサオリさんの髪が揺れ、花を思わせる甘い匂いが香る。
それにしても、ラブホテルで同じシャンプーやボディーソープを使っているのに、なんでこんなに香りが違うのだろう?
自分の匂いは分からないのだが、サナもミツキもサオリさんも香りが違うんだよな。
体臭と混じりあって香りが変化してるのだろうか?
>淫スキル【匂いフェチ】を得た
なんか来た。
嗅覚強化と匂いによる分析、探査ができるスキルらしい。
試しに使ってサオリさんのうなじあたりの髪の毛に顔を埋める。
「あっ…」
……んはぁ。これ癖になりそうだ。
サナもミツキも良い香りがするんだけど、サオリさんの香りは、なんというか本能に直接効くような香りで背中がゾクゾクする。
「もう!」
サオリさんに耳を引っ張られたので、泣く泣く顔を起こす。
「髪の匂い嗅ぐの禁止です!」
後ろで一つに縛っていた少し栗色の入ったゆるふわロングを身体の前面に避難されてしまった。
おかげでサオリさんの白いうなじが見え、今まで髪に隠れて籠っていた匂いがまた鼻をくすぐる。
わざとやってるんじゃないよな?
「あはは、だいぶ緊張しないようになりましたね。」
「うふふ、お陰様で。」
見つめ合った瞬間、楽しそうに笑うサオリさん。
サオリさんは最初の男性経験がトラウマになっているので、結構スキンシップにNGが多い。
怖がって身体が固まってしまうのだ。
たとえば、触れるとか抱き寄せるとかは慣れて来たのかOKになったが、掴むのは未だにNGだ。
特に手首や足首、腰やお尻もそうだな。
やったことはないが、頭とか髪も、おそらくそうだろう。
あと、身体を押さえつけるのも異様に怖がる。
後は相手の顔が見えない状態で身体を動かされるのも怖いらしい。
なので、先ほどの後ろから抱き寄せるというのも実はギリギリの行為だったのだが、サオリさんが座る位置を確認するために、こちらを向いたタイミングでチャレンジしてみた。
感触として接触面積が広い状態とか、話しかけながらだと大丈夫っぽい。
要は触れているのは私だと認識させ続けないと過去のトラウマがフラッシュバックしてしまう様子だ。
なので『レベル上げ』の時にも当然眼鏡着用はマストだ。
サオリさん自体も戦闘時は眼鏡がなくてもどうにかなるけど、触れ合う機会が多い部屋の中ではもう眼鏡が手放せないと言ってた。
これ、前の旦那大変だったろうな。
「匂いといえば、レン君もいい匂いしますよね?」
「サナやミツキにもよく言われますが、そんなに匂いますか?」
サオリさんが振り返るように私の首というか耳の下あたりで鼻を鳴らしている。
「ええ、安心するような。ドキドキするような不思議な匂いです。」
「正反対じゃないですかそれ。」
先程覚えた淫スキル【匂いフェチ】によると、私の身体からは強いフェロモンが出ているらしい。
異性へのあらゆる行為に対して淫魔ランクに応じてボーナスを得る種族スキル【フェロモン】は物理的にも効果が出ているようだ。
流石に嗅いだら即発情というほどではないようだが、発情期が終わった後のサナも、これの影響を受けていそうだな。
匂いを嗅がれたお返しにサオリさんの角の根元あたりの匂いを嗅ぐと、サオリさんがくすぐったそうに身体を捩る。
サナもそうだけど、ここ凄く蠱惑的な匂いがする。
リラックスしているのか預けられたサオリさんの背中が温かく、両胸の下に回した腕にも胸を乗せられてくつろがれているような状態だ。
って、この感触は…またブラジャーしてないな?!
会ったばかりの頃のサナもそうだったが、習慣づいてないせいかサオリさんも下着を付けてないことがちょいちょいあって、よくミツキに注意されている。
今に至ってはサラシすら巻いてない。
いや、おかしいな?今朝は着けてたぞ?
あー、さっきのお着替えタイムの時に外れて、それをそのままにしているのか。
気付いてしまうと意識がそこに集中してしまい、腕にあたる感触も更に気になり、視線がどうしてもそこに向いてしまう。
ましてや今のサオリさんの恰好は鎖骨が丸見えになるほどの深いVネックの淡いグリーン系長袖ニットにデニムのロングタイトスカートというセクシー寄りの恰好なのだ。
それが下着レスな上に座高の違いで上からのぞき込むようなアングル。
さっきまでは匂いに心を奪われていたが、一度気づいてしまうともう駄目だ。
「あ、あの、レン君?その、お尻に固いのが当たってるんだけど…。」
そういうサオリさんだって、ニットに覆われた胸の一部、というか二部が主張し始めているし、ステータスをチェックすると発情している。
たれ目がちの瞳に見つめられ桜色の唇が誘うように艶やかに光る。
右目の下の泣きボクロがまたその色気を倍増させているように思う。
そう思った時には既に吸い寄せられるようにお互いの唇の距離が縮まっていってしまっていた。
サナです。
せっかくだから手の混んだ美味しい料理をお父さんに作って上げたいと思って買い物を進めていたんですけど、途中でミツキちゃんも自分が作ったものもパパに食べて欲しいってお願いされたので手間はかかるけど簡単な料理に変更しようと思います。
次回、第二一一話 「高い棚の倫理観」
北区は、お父さんが好きそうなお酒も少ないんですよね…。
南区まで行けばあるかな?




