第二○六話 「ミツキのパパ」」
「お母様は、むしろ『サナがこの里の普通の娘で、それを族長のアンタが助けにいくというのなら止めやしない。
逆にアンタが族長でもなんでもない普通の母親の場合でもね。
だが、族長のアンタが自分の娘可愛さに里を放って探しに行くっていうなら許さないよ。』と、止めたくらいです。」
「あー、それも言いそう。」
サナが頷いてる。
「えっと、ママさん、族長の座をサナちーのお姉さんに譲り渡してきたって言ってたスよね?それって…。」
「売り言葉に買い言葉みたいな感じで…。」
サオリさん、ゆるふわお姉さんみたいな見た目に反して、直情型で頑固なところあるよな。
そういや初めて会った時もいきなり切りかかってきたっけ。
「ミナ、いえ、娘の応援もあって、こうして出て来れましたが、今思えば、先に族長の座を退いたお母様が私の代わりに探しに出るつもりだったのかもしれません。」
話の流れ的に、ミナというのがサナの双子のお姉さんの名前なんだな。
「つまり、舐められたらおしまいだからサナちー攫った相手をぶっ飛ばして連れ帰してくる。族長だから駄目?じゃあ止めてやるわーと、いってママさんは里を出て来たって事ッスか?」
「サナが攫われたことで頭に血が上っていて…。」
サオリさんが恥ずかしそうに小さくなっている。
「いいじゃないですか。族長としてはともかく、母親としては正しいと思いますし、素敵だと思いますよ。」
「お母さん…ありがとう!」
サナが涙ぐんでいる。
だいぶ前にベッドの中で自分は優秀な姉と違って祖母や母からの扱いが悪かったような事をサナはいっていた。
それを聞いた時は、代々の族長としての教育の流れがあったのでは?みたいなフォローを入れたような気がする。
家を守る立場であるならば跡継ぎはやっぱり大事なのだ。
それが一族を護る立場なら尚更だろう。
そのような立場だったにも関わらず、自分よりも姉の方が大事だと思ってた母親が、家を一族も捨てたような恰好で自分のために助けに来てくれたのだ。
サナにとっては母親の愛を改めて感じ直すことが出来たのだろう。
今は、二人抱き合って泣いている。
「親子っていいッスね…。」
それを見て寂しくなってきたのかミツキが近づいてきたので、背中側からその身体を包むように抱きしめる。
「ミツキにだってパパがいるだろ?」
「えっ?!」
ミツキはちょっと驚いたように振り返るが、すぐ満足げに頷き、抱きしめた私の腕を両手でニギニギしながら、そこに頬ずりをしはじめた。
「そうッスね。今はアタシにもパパがいるんスよね。」
目の前をミツキのうさ耳が楽し気に揺れていた。
▽▽▽▽▽
「ママさんの立場的にアタシ達を攫った奴ら、いわば誘拐犯ッスね。そいつら見つけるのはマストだと思うッス。」
「ますとってなんですか?」
「絶対に必要って意味だっけな?」
この辺り、【鬼族語】ではどういう変換になっているんだろう?
マストは【共通大陸語】にはあるけど、【鬼族語】には無い単語みたいな扱いなんだろうか?
ミツキの言葉なので【兎人族語】の可能性もあるだろうが謎だ。
「そういえば里への手紙には、どんな風に報告したんですか?」
「えーと、現況報告だけですね。」
サオリさんから聞いた里への手紙の内容は端的なものだった。
・今、サナを見つけて保護してくれた方と一緒にいます。
・サナは無事です。
・その方たちと一緒にサナを連れて里に戻ります。
サナが奴隷落ちしていた状況の事は書くと長くなるので省略したらしい。
あと、サオリさんの話しぶりからすると、サナ (とミツキ)がこの街の奴隷商の元に売られていた事自体は知らないようだ。
たぶんサナがそこまでは話さなかったんだな。
「その手紙の内容と、ママさんの里を出る時の発言を考えると、サナちーを里に帰した後、けじめをつけるために、また改めて誘拐犯を探しに行く事になると思うんスよ。」
そうなるだろうな。
「でも、現実問題として、本気で誘拐犯を探すとなると、その顔を知っているサナちーとアタシの二人がいるうちに、アタシたちが売られたこの街から逆に追っていくのがセオリーだと思うっす。
そう考えると、どうせ探さなきゃならないなら一回里に戻ってまた帰ってくるより、今の状態で探すか、探しながら戻るかした方が良いとアタシは思うッス。
里に帰ったが最後、サナちーが保護か罰か何かで里から出れなく可能性も無いわけじゃないッスよね?」
「…そうね。…て、二人とも奴隷として売られたのもこの街だったの?!」
「あ、そういえば言ってなかったかも?
それはそうと、わたしもミツキちゃんの意見に賛成です。」
あ、やっぱり言ってなかったのね。
「そうなると逆に奴隷のままの方が誘拐犯を追い詰めやすいか。」
「それッス。誰かに聞くにしても問い合わせるにしても、『この奴隷の出処を調べてる。』って方がやりやすいと思うッス。」
一理あるな。
ミ~ツキ~ッス~♪
パパすきッス~♪
次回、第二○七話 「口車」
パパのもののままでいたいッス~♪




