第一九八話 「我儘」
「本当に美味しかったです。レン君ありがとう。」
二人をベッドに運んで寝かせたサオリさんが、頬を赤らめトロンとした目で語りかけてきた。
だいぶん酔いが回っているらしい。
こういう表情をすると泣きボクロが本当に色っぽく、赤ワインを飲む艶やかな唇に吸い込まれそうだ。
「喜んでいただけたようで何よりです。
後片付けも私がしますから、サオリママも休んでいいですよ?」
疲れているだろうと思い、気を使ったつもりだったが、サオリさんの口が尖る。
「駄目ですー。わたしだって、いつまでもお客さんじゃ居心地悪いですから、お片付けくらい手伝いますー。
…気を使って貰っているのはわかりますけど、のけものみたいで寂しいです。」
拗ねた顔から少し寂しそうな顔に変わるサオリさんの表情。
普段は、いつも優しげな笑みを浮かべているので新鮮な感じがする。
「それじゃ、少しだけお手伝いしてもらいましょうか。」
「はい!」
にこやかな笑顔。
こういう表情の時はサナに似てる感じがするな。
▽▽▽▽▽
淫魔法【コスチュームプレイ】で、自分とサオリさんにエプロンを着せる。
それほど汚れないし最終的には水気も飛ぶとは思うが念の為だ。
シンプルな淡いピンクのエプロンだが、サオリさん、これめちゃくちゃ似合うな。
「それじゃ、私が横でお湯や洗剤を出すので、サオリママは、それを使って食器を洗ってください。」
「はーい。」
スポンジを持ってワキワキしているサオリさん。
何故か楽しそうだ。
不慣れそうな手付きで皿を次々と泡だらけにしていく。
あまり家事はやらない方なんだな。
と、いうか族長だったんだから当然か。
大皿が2枚、小鍋が一つ、椀が2つと4つのマグカップ、あとは細々としたものくらいなので、あっという間に洗い終わる。
「それじゃ、次は、すすぎですね。」
先ほどと同じように淫魔法【ウェット&メッシー】で手からお湯を出して、それで泡を流して貰うのだが、どうも位置が悪いのか不器用なのか不慣れなのか、マグカップの泡が落ちきらない。
「んー、レン君、こっち来てもらってもいいかしら?」
返事も聞かずにサオリさんが自分と洗面台との間に私の身体を入れる。
サオリさんが後ろから抱きしめるような格好だ。
二人羽織状態というか、陶芸のろくろを回すのを後ろから指導するみたいというか。
たしかにこれだとサオリさんの手元にお湯を出しやすい。
「これでお願いします。」
「わかりました。」
今度はこちらでもお湯の位置を調整できるのも合わせて、順調にすすぎが進んでいく。
それはいいのだが、後頭部がおっぱいに当たっているのが非常に気になる。
サオリさんが両手を動かす度に、ぷるぷると柔らかい感触が後頭部を刺激するのだ。
あと、めっちゃいい香りがする。
チョコレートと赤ワインのせいだろうか?吐く息すらいい匂いだ。
「レン君、終わりましたよ?」
「あ、ぼーっとしてました。あとはこれで、魔法を解けば。」
「あら!本当に一瞬で乾いちゃうんですね。」
「便利でしょう?」
乾いた食器はメニューのアイテム欄経由で同じくアイテム欄に入れている食器入れに仕舞っていく。
「お片付けも魔法なんですね。」
「運搬者に似ているそうですが、これは魔法というか、なんというか、こういう能力なんです。」
なぜかサオリさんは後ろから私のお腹に手を回して抱きかかえたままだ。
酔っているせいか接触している部分が温かい。
前に飲んだ時も思ったのだが、サオリさん、飲むと距離感近くなるな。
「レン君、今日もありがとうございました。」
「いえ、大したことは…」
「そんなことないです。
お手伝いしたい。っていう我儘も聞いてもらって…。
たぶんレン君なら一人でやったほうが早かったですよね?」
「こんなの我儘のうちに入りませんよ。
もっとしたい事や思っている事があったら遠慮なく言ってください。
こんな身体ですけど、本当の年齢はサオリママより上なんですから、甘えて貰ってもいいんですよ?」
「でも、大人の身体のレン君でも二十歳なんですよね?
それじゃ、わたしの方がお姉さんです。」
それはそうなのだが。
「んー、でも、今日はお姉さん、もうちょっとレン君に甘えちゃいます。」
サオリでーす。
酔ってまーす。
うふふーレン君あったかーい。
次回、第一九九話 「リキャスト」
怖いはずの男の人相手なのに、ちょっと大胆になっちゃいそう。




