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第一九六話 「愛情の基礎」


 「魔素核だけで3金貨ちょいくらい、昨日の分と合わせて8金貨ちょっとってとこだね。」

 「金貨15枚のノルマ、折り返しッスね。」

 「カプセルの分あわせたら、もっともっとありそう。」

 「半信半疑でしたが、本当に稼げてしまうんですねぇ。」

 サオリさんは、いつもの右手を頬に当て首を傾げたポーズだ。


 「みんながいるおかげですよ。サナお姉ちゃんと二人だけの時はもっと大変でしたし。」

 「最初の時は一日びっしり迷宮にいて、全部合わせて金貨3枚半くらいでしたっけ?」

 「十分多くないッスか?」


 「昨日みたいに武器類が高く売れた時だからね。それ以外だと金貨2枚までいかなかったはず。

 さっきサナお姉ちゃんが言ったとおり昨日から貯めているカプセル分考えれば単純に今はその時の倍以上稼げてるんじゃないかな?」

 カプセルの方は金額だけじゃなく、ギルドの評価にもつながるのも大きいしな。


 「サオリママの【金剛結界】はもちろん、どんどん連携が上手くなるサナお姉ちゃんやミツキ姉のおかげだよ。」

 三人とも照れくさそうにモジモジとしている。

 なにげにサナとサオリさんの動きがシンクロしているのが面白い。


 「と、いうわけで、もうすぐ元の身体にも戻れそうだし、これまでのお礼に今晩は私が晩御飯を作ろうと思う。

 買い出しに行ってくるので、それまでゆっくりとみんなでお風呂でも入って待ってて。」


 「え?パパ、じゃなかったレンくん料理できるんスか?」

 「出来るってほどじゃないけど、それなりにはやれるよ。

 こっちの宿に来てから、ご飯はサナお姉ちゃんに頼りっぱなしだからね、今晩くらいは休憩で。」

 「そんな、いいのに…。」

 「美味しい物を食べて貰いたい。って気持ちは私だってサナお姉ちゃんと同じなんだよ。今日くらいはゆっくりして。」


 『ご飯を食べさせたい。』という欲求は、たぶん、愛情の一番基礎の部分なのかもしれない。

 動物が我が子に餌を与えるような原始的な愛情。

 本能に刻み込まれている愛の形だ。


 「お手伝いとか必要ないですか?」

 サオリさんも遠慮がちに聞いて来る。


 「そんな難しいものを作るつもりがないから大丈夫ですよ。

 んー、でもそうだな、下ごしらえを少しミツキ姉に手伝って貰おうかな?」


 複雑な顔をしてたミツキのうさ耳がピコッと跳ねる。

 「了解っす!で、何つくるんスか?」


 秘密にしておきたいが助手にくらい話しておいた方がいいだろう。

 ちょいちょいとミツキを手招きして、そのうさ耳に内緒話をする。


 「…それ絶対美味しいやつじゃないッスか!やるッス!めっちゃ手伝うッス!」

 「まだ二人には内緒ね。」

 「えー、ミツキちゃんだけずるいー。」

 ちょっと拗ねたサナも可愛い。


 「まぁまぁ、わたしたちは楽しみに待ってましょ。」

 サナの両肩を抱いて、サオリさんがなだめている。


 「それじゃ、ちょっと行ってくるね。」

 「いってらっしゃいませ。」

 「レンちゃん、気を付けてね。」

 「いってらっしゃいッス!じゃ、アタシ達もお風呂にゴーッスよ!

 アタシと違って二人はお風呂長いんスから。」



▽▽▽▽▽


 とりあえず牛乳とパン、あとはフルーツがメインで…お?バナナっぽいのもあった。

 これも買っておこう。


 ん?これお芋ですか?両方とも?


 ちょっと厚いけどポテトチップとフライドポテトだな。

 これも買う。

 

 アレも欲しいが売って無さそうだ。

 技術的に難しいのかな?


 …そういえば……お、あったあった。淫魔法【ウェット&メッシー】で見かけた気がしてたんだ。

 

 ナッツ系も少し買っていくか。

 あ、剥いたやつでお願いします。はい。

 

 改めて材料揃えてみたけど、それこそ料理って程じゃないな。

 ミツキにはフルーツを切るのと盛り付けを手伝って貰おう。

 

 あ、竹串も買っていかなきゃ。



▽▽▽▽▽



 「ただいまー。」

 「おかえりッス。下ごしらえの準備してあるッスよ。」

 お風呂場のドアからヒョコッと顔だしてミツキが出迎えてくれた。


 「ありがとう。二人は?」

 「料理が秘密らしいから先に宿のお部屋に戻ってるってサオリさんが。」


 「そっか、じゃ、早速始めるか。」

 「はいッス!アタシは何をすればいいッスか?」

 「ミツキ姉はこの果物を一口大に切って、自分が食べやすいサイズでいいから。」

 「結構種類あるッスねー。そっかーアレと違ってデザート寄りになるんスね。これは楽しみッス。」

 「私はナッツ類と、このバナナっぽい果物をなんとかしよう。」



▽▽▽▽▽



 「もうちょっとで準備できるから、もう少し待ってね。」

 テーブルの中心に携帯用魔力コンロを置き、小鍋をかけ、買って来た牛乳を鍋の半分よりちょっと少ないくらいに注ぎ、弱火で温める。


 「牛乳のお鍋ですか?」

 興味深々でサナが覗き込んでくる。

 「もうすぐわかるよ。」

 空の丼サイズの椀を一つテーブルの上に置いて、残りの材料を取りにラブホテルの部屋に戻った。

 


 ミツキッス!


 確かにアレならアタシにも手伝えそうッス。


 アタシはサナちーが作るご飯を嬉しそうに食べるパパの顔と、それを見るサナちーの顔も両方好きなんスよねー。

 食べて貰いたいって気持ちもわかるッス。 


 次回、第一九七話 「太る?太らない」


 んー、思い出すと大人のパパに合いたくなってきたッス。

 あと、もうちょっと。あと、もうちょっとの辛抱ッス。

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