第一九五話 「1%」
「少なくとも吐く毒は魔法で封じたはず。
あと2発入ったら切り込みに入るわ!」
槍を再度召喚して、今度は【ドレイン】を付与させる。
>デミイメンススネークの【吐毒】
「射て!」
大蛇は鎌首を持ち上げて毒を吐こうとしたものの、予想通り吐ける毒は無く、単なる硬直時間となった。
矢が2本、槍が1本、大蛇の喉元に吸い込まれていく。
そのどれかのスタンをレジストしきれなかったのか硬直が長い。
チャンス!
相手の残り体力は1%も無い。
もう1度槍を召喚して、身体ごとぶつかるくらいのつもりで深く大蛇の身体に突き刺した。
しかし、殺しきれない。
体力多すぎだろ!
動揺しつつ、真上からほぼ垂直に襲いかかってくる大蛇の牙を見上げた時、そこに三日月を思わせる光が走った。
>サオリはデミイメンススネークを倒した
>350ポイントの経験値を得た
>ランク差ボーナスとして1,000ポイントの経験値を得た
それは大蛇の上顎を片方の牙ごと切り裂くサオリさんの薙刀だった。
体力が0になった瞬間に緑色の光の粒子になって霧散し、迷宮の壁や床に吸収されていく大蛇の身体は、まるで光のシャワーのように見える。
「ママさんナイス!」
「レンちゃん大丈夫?」
「流石にヤバイとおもったわ。」
「レン君、無事で良かった…。」
「サオリママ、ありがとうございます…格好良かったですよ?」
「うふふ、そうですか?」
▽▽▽▽▽
「凄い強い蛇でしたね。」
「ホント、ママさんいなかったら逃げるしかなかったッス。」
「サオリママもそうだけど、サナお姉ちゃんやミツキ姉の弓矢が勝利の鍵だったよ。」
「レン君の指示や気力を回復する魔法が無かったら、危なかったです。
というか、普通この人数とレベルで相手にするような敵じゃないですよ?」
そんな事を話しながらサナの作ってくれていた豚の角煮マンをみんなで食べている。
ちなみに先程蒸したばかりなのでホカホカだ。
今日はスタートが遅かったせいで、昼食というより3時のおやつといった趣だ。
「この後はどうしますか?
昨日みたいに下の階段まで移動しながら狩ります?」
両手で豚の角煮マンを持って食べているサオリさんがそう聞いてきた。
ちょっとリス感がある食べ方だ。
「さっきレンくんも言ってたッスけど、それって他のパーティーがこの階に登りやすくなっちゃわないッスか?
明日もこの辺りや上の階を独占するなら、止めたほうがいいかもッス。」
それもそうだな。
淫魔法【ラブホテル】で一気にショートカットして迷宮の奥地に来れるのが私達のパーティーのメリットだ。
それは生かしておいたほうがいいだろう。
「大蛇戦が大変だったせいか、こうしてサナの料理食べて座ってしまったら、もう立ちたくないなー。
少し早いけど、今日はもうこれで帰る?」
大蛇に会う前にそこそこ狩って稼いでいるし、私のレベルも19とランクアップ寸前だ。
ここまで来たら元の身体に戻ってからの方が狩りは安定するだろう。
「賛成ッスー、ラスト緊張して疲れたッスー。」
ミツキがサナに寄りかかって溶けている。
「これ以上はレンちゃんのランク上がってからの方が安全だと思うので、いいと思います。」
「わたしもそう思います。」
サナやサオリさんも賛成してくれた。
「それじゃ、今日はこれで帰る事にするわね。」
「汗かいたから、お風呂入りたいッス。」
「ミツキちゃんもすっかりお風呂好きになっちゃったね。」
「パパがちっちゃくなって入れなくなった時に、ありがたみを感じたッスねー。」
「里の温泉を思い出してしまうわ。」
「また温泉付きのお部屋行きたいッスねー。」
「あ、でもお父さんが元の身体に戻らないと無理かも?」
そんな話を聞きながら淫魔法【ラブホテル】を唱える。
「んー、今回も温泉付きの部屋はなさそうね。なるべく大きめの風呂があるところにするから我慢して。」
「いえ、お風呂いただけるだけでありがたいです。」
「うんうん。」
「レンちゃん、みんなで一緒に…」
「だから絶対狭いってば。」
サオリです。
間に合って良かった!
レンちゃんが切り込みのタイミング教えてくれてなかったら、危なかったかもしれません。
次回、第一九六話 「愛情の基礎」
迷宮に入った後にお風呂なんて、修業時代を思い出します。




