第一八六話 「ゴーレム」
「外から見えない結界ですか。」
サナが用意してくれていた、おにぎり弁当で遅めの昼食を食べながらサオリさんと話をしている。
ちなみに今回、ご飯粒の仕掛けは無いようだ。
「ええ。見えないですし、音も聞こえないですし、匂いもしません。」
「かなり高度な術式に思えるのですが…。」
「今更、どんな魔法が出てきたって驚かないッスよ。」
「レンちゃん、お茶もどうぞ。」
「ありがとう。」
サナから温かい緑茶を受け取る。
さすがにミツキやサナはデタラメに慣れっこなのか冷静だ。
結局のところ淫魔法【ラブホテル】をドア以外の任意の地点に使うと、宿泊施設としてテントが現れ、その周辺に結界が張られる仕様らしい。
淫魔ランクによってグレードや結界の広さや強度が変わりそうな匂いがプンプンする。
扉に使った時のようにドア to ドアのショートカットは使えないが、その代り隠匿モードを使うと外側から結界に触らない限り認識できないようになるらしい。
「旅をする時にテントや寝具持ち歩かなくていいのは楽ッスねー。」
声の方を見ると、寝袋で芋虫状態のミツキがいた。
「温かいッス。これで使い方あってるッスか?」
「なんか楽しそう。」
サナも寝袋の方に向かっていく。
「その使い方であってるよ。」
二匹になった寝袋芋虫を見てサオリさんと二人で笑ってしまった。
▽▽▽▽▽
「あと近くにいるのはゴーレム系と精霊系だけど危ないかしら?」
「硬くて武器が痛みやすいのと普通の武器では攻撃が通らないので狩場を変えた方がいいかもしれません。」
サオリさんがそうアドバイスをしてくれる。
「でもその二種類は落とす魔素核が1ランク高いって何かの本で読んだことあるッスよ。」
1ランク高いということは最大3ランクの魔素核か。
一つで金貨1枚分と考えるとかなり大きい。
「【どれいん】があれば大丈夫じゃないですか?」
「【ドレイン】で大量に吸える『弱点』が魔素核しか無いのと、生き物じゃないから、そもそも体力を吸えないかもしれないのよね。」
「その二種類は魔力で動いているっていいますからねぇ。」
「じゃあ、その魔力の方を吸い取っちゃうってのはどうッスか?」
それは前にも考えた事あるな。
サナと二人だけの時と違って今は人手もあるしなんとかなるかもしれない。
「今アタシ達が使っている武器ってレンちゃんが魔法で出したやつだから、魔法の武器扱いッスよね?
なら、それも含めて意外といけるかもしれないッスよ?」
最悪駄目なら淫魔法【ラブホテル】の部屋に逃げ込めばいいか。
「わかった。とりあえず試してみよう。」
▽▽▽▽▽
「金剛結界!」
「流石に硬い!」
身の丈3m以上はあるゴーレムの振り下ろすような右ストレートがサオリさんの金剛結界に阻まれる。
その腕の関節を狙って槍を突き立てるが、穂先の半分までも入らない感じだ。
たぶんこれでもマシな方なのだろう。
鈍器の方が効率良さそうだな。
ちなみにやっぱり【ドレイン】で体力を吸うのは無理だったので、メインの攻撃はサナとミツキによる種族スキル【男根のメタファー】で種族特性【ドレイン】の魔力吸収を付与した弓矢だ。
私とサオリさんでゴーレムの両手による攻撃を捌きながら、確実に魔力を削っていっている。
一撃必中の体力ドレインと違って時間はかかるが、槍に付与した魔力ドレインで私の魔力を回復できるというメリットはあるな。
ちなみにゴーレムの魔素核は、やっぱり額にあるので、少なくてもこの身体では届かない。
…まてよ?
今のサオリさんの金剛結界はゴーレムのパンチに合わせて斜めに張ってある。
と、いうことは…
『一瞬、射つのやめて!』
関節に刺さった槍を振り払うような、ゴーレムの裏拳をしゃがんで避け、バックステップからゴーレムの横を走り抜け、金剛結界へ飛ぶ。
あのゴーレムの一撃ですら受け止められるのだから、小さくなった私の身体の体重なんて当然支えられる。
金剛結界を足場に更に高く飛んだ。
裏拳を打った関係で背中を見せていたゴーレムが振り返るようにこちらを向く。
『射ちます!』
『射つッス!』
意図を察したサナとミツキが、ゴーレムに次々と矢を射ちかけて気を引いた。
この高さなら!
ゴーレムの広い肩に着地し、そのまま短く持ち直した槍を額の魔素核に突き立てた。
サオリです。
魔力を吸うっていう反則があるとはいえ、本当に上手くいくのかしら?
普通、ゴーレムって相当の強敵なんですけど…。
次回、第一八六話 「成果」
相手が弱ってるかどうか分からない戦いって不安です。




