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第一八○話 「サナと朝」


 「先に移動しちゃうのはアリだと思うッスけど、万が一にでも元に戻れなかったら大変ッスね。」

 ミツキも同じ考えのようだ。


 「ミツキちゃんの奴隷解放権利書が次の街で使えなかったら困りますし、移動はこの街で用事を済ませてからの方が良いのでは?」

 淫魔法【ラブホテル】でのショートカットを実感していない分を差し置いてもサオリさんのいう事も、もっともだと思う。


 「そうなると本当は良くないことなんでしょうけど、お部屋経由で直接迷宮に入るか、中で待ち合わせするとかでしょうか?」

 サナが唇に人差し指を当て、考えながらそう言った。


 とはいえ、この間、ギルドマスターに暗に勝手に入るなと釘を刺されただけに抵抗はある。


 「いっそ、子どもの姿で冒険者登録してしまうとかいかがですか?」

 サオリさんは身体の前で、ぽん。と手のひらを叩いて提案してきた。


 「重複登録になっちゃうから、淫魔の身体の方で登録するとか?…んー、今更だけど淫魔族って種族名が、魔族の一種だと思われたりしないかな?」


 「考え過ぎッスよ。

 歳もレベルも違うんスから、今の身体のまま同姓同名の別人のフリで登録して、サオリさんと一緒に迷宮へ。

 アタシとサナちーも二人で迷宮へ入って中で合流って感じで良くないッスか?」


 「それもそうだな。」

 ちょっと難しく考えすぎてたようだ。


 とりあえず明日は子どもの身体で探索者登録をしてから迷宮へという事で方向性が決まったので、今晩はこれでお開きとしよう。


 と、いっても4人部屋なので、何が変わるわけでもないのだが。


 ちなみに今晩はサナと一緒に寝る順番らしい。

 いつ決まったその順番。


 ベッドが4つある意義を問いたいと思ったが、私が目を覚ますまで不安で寂しかったと言われるともう折れるしかない。


 幸いお互いの身体が小さいせいで、二人で一つのベッドで寝てもそう狭くは感じないのが救いだ。


 久しぶりのサナの体温と香りを感じながら眠りについた。



▽▽▽▽▽



 頭になにか柔らかくて温かい感触が動いている。

 ゆっくりと。

 ゆっくりと。

 頭の天辺から耳の横を抜け、うなじの方まで。


 撫でれられている?

 ぼんやりとしながら目を開けると、目の前にはサナの優しい笑顔があった。


 「おはようございます。レンちゃん。」

 「おはよう、サナお姉ちゃん。…もしかしてずっと頭撫でてたの?」

 「うん。腕枕していた手がレンちゃんを起こさないようには抜けそうになくて、それなら起きるまで待とうかな?って。」


 そういや昨晩は、いつもと逆でサナの腕枕で寝たのだった。

 腕枕というか横になった時の枕と首の隙間にサナの腕を入れる形で抱き枕にされていたというほうが正しそうだが。


 「なんか、気持ちよい目覚めだったよ。ありがとう。」

 そういってサナの唇にキスをすると、頭を擦りつけてきたので両角にもキスをする。


 灯戸あかりどを閉めているので外の様子はよく分からないが、気温的に結構朝早い時間なのではないだろうか?

 ラブホテルの部屋と違って寒暖の差が結構ある。


 「あのね、今日から迷宮に入るなら先に『レベル上げ』してからの方が安全じゃないかって昨日の晩、ミツキちゃんと話してたの。」

 いつの間に…。


 いや確かに安全マージンや魔力や魔力回復量を考えるとレベルは先に上げといた方が良いのはそのとおりだ。


 「だからミツキちゃんも起こして、お部屋で一緒に『レベル上げ』しよ?」

 

 朝はちゃんとご飯食べたほうがいいよ?みたいな顔でサナがそう誘ってくる。

 そっちの方も話がついてるのね。


 それにしてもサナは私がしたことや自分がされたことを妄信しているような危うさがある。

 今だって、おそらくサナが最初に迷宮に入るに当たって、念入りに『レベル上げ』をした経験を受けての発想だろう。


 とはいえ、サナが私の身を案じているのは表情で分かるので、頷き、ベッドから降りると扉に向かって淫魔法【ラブホテル】を唱える。


 扉の前で部屋の種類を選んでいる最中に、サナがミツキを連れてドアの前にやってきた。

 「(おはようッス)」

 「(おはよう。サナ姉)」

 サオリさんを起こさないように小声で挨拶をすると、そのまま3人でラブホテルの部屋に入った。


 「あれ?昨日よりも豪華な部屋ッスね?

 ランクが下がったので部屋も小さいのしか用意できないって昨日言ってなかったッスか?」

 「短時間に絞るなら少し融通が効くんだよ。」


 休憩料金と宿泊料金みたいなもんだ。

 感覚的なものだが、今のランクだと、ご予算ざっくり5,000円といったところだろう。

 宿泊ならともかく休憩なら、それなりの部屋が選べる。


 昨日は運が悪いのかランクが低いためかわからないが、連戦になるのにサービスタイムで部屋を確保できなかったので、予算というか魔力を節約しなければならなくて特に狭い部屋だったのだ。


 淫魔の身体に戻ってから淫魔法【ラブホテル】唱えれば良かったのかもしれないが、そういう雰囲気でも無かったしな。



 ミツキッス!

 実はずっと見てたッスけど、起きるまで頭撫でられるのって気持ちよさそうッスね。

 パパが戻ったら、やってくれないッスかねー。


 次回、第一八一話 「ポジション」


 1人ずつ呼んで順番に。ってのは、どうしても時間が長くなるってのもあるッスけど、パパが居心地悪くなるような気がするッス。

 パパ、待ってる人にも気を使うタイプだし。


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