第一七六話 「順番」
「そういう事なら、レン君があんな身体になる原因になった、わたしがやります。」
「でも、ママさん、大丈夫ッスか?サナちーから男嫌いだって聞いてるッスよ?」
「お母さん、こうなったら頑固だから…。でも本当に大丈夫?」
「ええ、今のレン君なら多分怖くないし、何よりサナの恩人で、わたし自身の命の恩人のためですもの。」
「どう?ミツキちゃん。」
「サナちーがそれでいいならアタシはOKッスよ。
どっちみちランクアップなら1回で解決する話でもないから、単なる順番の問題ッス。
ママさん、サナちー、アタシの順番でいいんじゃないッスか?」
「うん、ありがとう。」
「で、何がありがとうなの?」
いつの間にか一人で寝ていたベッドから3人の話声を聞いていたが、途中からだったので内容は分からない。
でも、どう考えても私絡みの話なので、口を挟んでみた。
背後からの私の声にビクンと跳ねるサナとサオリさん。
向かいに座っていたミツキはこっちが起きているのに気づいていたようだ。
「『レベル上げ』の話ッスよ。
状態異常解除のためにランクアップ狙うなら、これが一番確実で早いッス。
実際アタシのランクアップもすぐだったし。
あれはパパ、じゃなくて、レンくんの方にも経験値入るって前教えてくれたッスよね。」
そういや、ミツキには詳しく説明したことがあったな。
『淫魔の契り』は確かに相手を達しさせた時にお互いのレベル差に応じた経験値が入る。
私のレベルが低いため、サナやミツキみたいに自分よりランクが高い相手なら、ランク差ボーナスも入るし、確かに効率的だろう。
サナやミツキのように一晩で箇所別最大3回は無理だが、たとえ1回でも3人いれば同じことだという理屈も分かる。
実際にレベルアップやランクアップを経験して、日常的に身体を重ねていた二人がその選択肢を選ぶのも、ある意味当然だとも思う。
だけども、
「ですから、わたしからお相手します。」
サオリさんまでというのは抵抗がある。
サナのお母さんだよ?
いや、確かにサオリさんは一人だけ『淫魔の契り』の指輪を持っていない関係で、ラブホテルの出入りが不自由だったり、淫魔法【コスチュームプレイ】の効果時間が異常に短かったりという不便さはあったのだが、倫理的にうーん。
悩んでいるところにミツキが耳打ちしてきた。
「鬼族的にはOKらしいッスよ。
っていうか女系の亜人族は基本的に種の出処にこだわんないッス。」
種の出処って…言いたいことはわかるけども。
「レン君、わたしにも恩返しをさせてください。」
ちょっと緊張した顔つきだが、強い意志の宿る瞳でじっと見つめてくるサオリさん。
こういうところ、サナに似ているな。
いや、逆なのか。サナがサオリさんに似ているんだな。
「わかりました。」
サナやミツキの時と同じく、この意志は曲がらないだろうし、私も無碍に出来ない。
3人の提案を受け入れる事にした。
▽▽▽▽▽
「レン君、ありがとう。別に部屋を用意してくれて。」
「流石にあの二人の前で、というのは抵抗あるでしょうから。」
今は、淫魔法【ラブホテル】で選んだ部屋の中にサオリさんと二人でいる。
身長差的に顔は見上げるような形になるのだが、流石にサオリさんは緊張しているようだ。
私も緊張していないわけではないのだが、サナやミツキと違い、元の世界でも犯罪扱いではない大人の女性相手なので、逆に抵抗感は少ない。
サナの母親であることを無視すれば。の話だが。
とはいえ、子どもの身体でうまくできるか?という不安感はあるし、そもそもこの身体が精通してなかったら『レベル上げ』によるランクアップ計画は自体がアウトだ。
年齢的に精通していない可能性の方が高いだろう。
もしもそうなら、現状、迷宮で戦って稼ぐしかないので、そういう意味ではちょっと緊張しているかもしれない。
それにしても、サオリさんは男嫌いだとは聞いているが、元人妻、しかも再婚経験者でなぜそんな状態に?
とりあえずベッドに座ってもらい、その横に自分も座る。
サオリさんは緊張はしているものの、怖がってはいない様子だ。
今の自分は男といっても子どもだしな。
「男嫌いと聞きましたが、何がそうさせたんですか?」
最中にトラウマスイッチONとなると、お互い大変なので、失礼だとは思うが先に聞いておこう。
サオリさんは悲しそうな顔をすると、私の身体を抱き寄せ、自分の太ももの上に座らせ、抱きしめた。
どうやら相手の目を見ながら話せるような内容では無いらしい。
私のお腹を抱くように腕を回し、胸が座椅子の枕になるような体勢で、サオリさんはポツポツと話し始めた。
サナです。
うーん、本当は一番にお父さんの手伝いしたいけど、お母さんの気持ちもわかるし…。
次回、第一七七話 「過去」
ちょっとモヤモヤします。




