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第一七四話 「呼び方」


 「つまり、ここは奥さんが取っていた宿なんですね。」

 「ええ、流石に人数に合わせて部屋は替えて貰いましたが。」

 「宿代は?」

 「あたしが食費で預かっている分から出しました。」

 「そうか、サナ、ありがとう。」


 意識を失っていた間の事を三人から教えて貰った。


 術の途中から魔法陣だけじゃなく、私の身体も光りはじめ、だんだん光の玉のようになったかと思うと、その玉はサオリさんの胸の上で小さくなっていったんだそうな。


 その光と魔法陣が収まると、そこにはサオリさんのほか、小さくなった私がいたかと思った瞬間、ラブホテルの部屋が氷が割れるかのように音を立てて崩れ始めて、元の簡易宿泊所の部屋に弾き出されたらしい。


 その後、サオリさんはすぐ意識を取り戻したが、私の意識が戻らないということで、皆で相談したところ、このダブルの簡易宿泊所に4人も、しかも小さくなった私という子どもがいる状態は目立つだろうし、それを私は嫌がると思ったので、とりあえず、今いるサオリさんがキープしてあった宿に移動したそうな。


 朝食が終わった後、食材や食器関係のカバンや三人の普段使い以外のカバンをメニュー欄のアイテムに仕舞っておいたのは正解だったな。


 ちなみに私の身体はサオリさんがおぶって運んでくれたとの事。

 私が目覚めるまで、丸一日かかったらしい。

 

 「みんな迷惑かけたね。」

 「全然ッスよー。」

 「はい、いつもお父さんにして貰ってること考えたらこれくらい。」

 「わたしも、やっと少し恩返しが出来て安心しているくらいです。」

 三人とも笑顔でそう答えてくれた。


 「それにしても…。」

 先程まで寝ていたベッドに座り直したところ、サナがちょこんと横に座ってきた。


 「お父さん、ちっちゃーい。あたしより小さくないですか?」

 そういって、背比べするように手のひらを水平に当ててくる。

 確かにお互いの目線はそんなに大きく変わらないような気がする


 「今のパパって、どういう状態なんスか?」

 サナと同じ様にミツキが横に座ってくる。

 ミツキとなら明らかに顎をあげるか上目遣いじゃないと目線が合わない。


 自分のステータスからいうと、背ではサナが+3センチ、ミツキが+15センチ、サオリさんで+22センチ高いことになる。


 元の身長が高めなので、人を、しかも女性を見あげなきゃならないというのは新鮮だ。

 「年齢が半分の10歳まで、レベルも同じく10まで下がっていて、『源魔力枯渇』という状態異常らしいが、ここから更に減るような状態じゃないみたいだ。」


 ステータスやシステムメッセージのログを見ながら、そう答える。

 結局、サオリさんを治すために必要だった魔力は4,140だったようで、足りなかった魔力を文字通り身を削って捻出した形のようだ。


 自分の魔力のストックゲージ数を考えると、最大で4,860までは貯められたので、油断と慢心からくる凡ミスだっと言わざるを得ない。


 冷静なつもりでいたが、早く治そうと結構テンパってたんだな。


 淫魔ランクが1まで落ちているので、それ関係の魔法やスキルは弱体化しているものの、使える種類はそのままだし、通常のスキルはそのまま維持されているので、そんなに酷い状態ではない。


 と、いうか、魔力を絞り尽くしたら身体が小さくなるということは、私のこの世界での身体は魔力で再現したものの可能性が高い。


 コロコロ男の身体になれたり女の身体になれたりするので、言われてみれば当然か。

 あったとしても実肉体はこの子どもの身体までだろう。


 つまりディスペル・マジック系の魔法で消える可能性があるということだ。

 今思うとサンダーボルトハーピーの『呪歌』とかヤバかったんだな。


 逆にいうと高位の魔法じゃなきゃ大丈夫なのか?

 落ち着いたら対策を考えておこう。



 「その身体は治らないんですか?」

 サナがなぜか私の頭を撫でながらそう聞いてくる。

 何故か楽しそうだ。


 「状態異常だから時間で治る可能性もありえるだろうけど、奥さんにかけた魔法は自分自身には使えないし、ランクアップ待ちになるかもしれない。」


 「じゃ、しばらくはこのままッスね。」

 今度は、ミツキが抱きついて頭に頬ずりしている。

 二人とも近くない?


 「でも、その子どもの身体では、戦闘は難しいのでは?

 それに次のランクまで10レベルなんて、何年かかるか…。」

 自分の治療が原因だという負い目があるのか、サオリさんだけは、心配そうな顔をしている。


 「身体が小さくなって、リーチとか体力、魔力に不安はありますが、サナとミツキもいるし、大丈夫だと思いますよ。」

 サオリさんを落ち着かせるために、笑顔でそう返すと、


 「…レンさんって、小さい頃は女顔なんですね。」

 しみじみと顔を眺めたサオリさんにそう返された。


 何十年ぶりに言われたな。それ。

 昔は地味にコンプレックスだったのだが、10歳の身体の今なら、まだマシになったほうだと思う。確か。


 「可愛くて、お父さんって呼びづらいです。」

 「そうッスね。それに、人の見ているところで、いつものように呼んだり呼ばれたりしたら、変に思われるかもしれないッス。」


 普段の20歳の身体の時に『お父さん』だの『パパ』だの呼ばれるのも相当だと思うが、それは外見年齢が当てにならない亜人族的には良くあることだと二人に説得されたものの、今の10歳の身体だと、どう考えても変だろう。


 私の方もサナくらいならともかく、ミツキくらい歳が離れている相手を呼び捨てというのもイメージが悪い。

 ましてや、『奥さん』と人を呼ぶ10歳児というのも変だろう。


 「あー、もっともだな。呼び方変えるか。」

 「サナお姉ちゃんと呼んでください!」

 「ミツキねえで!」

 凄い食いついてきた。

 サナは末っ子なので目下がいるとテンションが上がるのはミツキの時に知っていたけど、ミツキまでもか。


 って、ミツキは一人っ子だから、同じような憧れはあってもおかしくないのか。


 「えーと、わたしは…」

 「お義母さんかママかサオリママあたりどうッスか?」

 お義母さん呼びは色々過去を思い出してしまうので、流石に呼びづらい。


 「それならママかサオリママかな?」

 「うふふ。よろしくね、レン君。」


 サオリです。

 ママって言われると、くすぐったい感じしますね。


 次回、第一七五話 「弟」


 男の人も、子どもなら怖くないのに…。

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