第一七一話 「試行錯誤再び」
さて、『淫魔の契り』によるランクアップという保険があるので、少し落ち着いて考えよう。
今、しなきゃならないのは、私の勇者としての力。
つまり『なんかエロい感じとか下半身絡みのキーワードから特殊能力を得る力』を使ってサオリさんを治す方法を新たに得ることか、もしくは娼館のミサラさんを治したときのように、既存の能力を組み合わせて、新しい能力を得る事だ。
ろくでもない能力だが、今はこれだけが頼りだ。
とりあえず今まで得た能力を眺め直している。
種族特性【性病破棄】の拡大解釈で病を破棄出来ないかとも考えたが、どうやらこの特性は、淫魔法【性病治療】と類似の効果らしい。
雑に言ってしまえば対病原体ドレインだ。
カプセル化して病原体を廃棄しないところが違うが、本当の意味での『お清めエッチ』ってやつだな。
まてよ?癌細胞にドレインをかけて弱らせるというのは一つの手か。
いや、どうやっても範囲ドレインになるので、回りの内蔵も弱ってしまうし、ミサラさんの時のようにそれを回復魔法でフォローさせることもできない。
でも、余命を伸ばすことは可能かもしれないな。
淫スキル【淫魔】で淫魔の身体に戻り、横になっているサオリさんのお腹に手を当てる。
「ちょっと一つ方法を試してみます。楽にしてください。」
「はい、よろしくお願いします。」
勇者装備の『変成の腕輪』でサオリさんの腹部全体を効果範囲に指定し、当てた手からドレインをする。
サオリさんの体力ゲージが3割ほど減ったのを確認したあと、淫スキル【性病検査】でステータスを再確認する。
【状態異常】余命:178日
「よし!」
「治ったんですか?!」
思わず声に出てしまった瞬間、サナが食いついて来た。
「いや、治ってはいないけど、余命を一月ほど伸ばすことは出来たわ。」
日数に余裕ができたので、淫魔法【精力回復】でサオリさんの体力を回復させる。
これにより余命は3日減ったが差し引きで考えれば相当のプラスだ。
「治らないけど時間切れでアウトは無くなった。って感じッスか?」
「そんな感じね。」
一同の顔が少し明るくなる。
保険が更に増えたので別のアプローチをしてみよう。
誰がジャッジをして能力を与えてくれているのかは知らないが、能力を得るために拡大解釈しやすい発想をしてみることにする。
今必要なのは端的に言えば『癌を治す能力』
エロくないキーワードなので、これでは能力を得られない。
なのでこれを言い換えていこう。
『不可逆的肉体変化を元に戻す能力』
ちょっと広すぎるか、若返りといっているようなもんだしな。
>淫魔法【回春】を得た
事前にかけておくと、精力が0になった時にゲージ1本分回復する魔法らしい。
必要な能力じゃないとはいえ、新しい能力を得られたので、この調子で考えていこう。
『元に戻らない身体を元に戻す能力』
戻らない身体…元に戻ったら…なにかそんな話しを昔したような…。
△△△△△
「クーパー靭帯?」
妻の言葉に振り返った。
「一度伸びたり切れたりすると元に戻らないんだって。お婆ちゃんのおっぱいとかが垂れているのはそのせいだそうよ。」
妻が開いているパソコンの画面を覗き込む。
「おっぱいを支える網目状のコラーゲン主体の組織なのか。
クジラベーコンの肉と脂肪の間みたいな感じなのかね?」
「食べられなくなるからやめて。
これ、整形技術が上がって、繋げられたりできるようになったら、その人は、おっぱいマスターね。」
「リフトアップしたほうが早そうだがなぁ。
ま、二度と戻らないクーパー靭帯を治せるようなら、おっぱいマスターどころかおっぱいの神様だろう。」
△△△△△
今は亡き妻との会話をふと思い出した。
死産が原因でノイローゼになるだいぶ前の話だ。
懐かしいような、寂しいような、今となっては思い出すだけで辛くなるようなそんな思い出。
だが、
>淫魔法【おっぱいの神様】を得た
今は別の救いとなったようだ。
サオリです。
サナやミツキちゃんがそうしているように、わたしもレンさんを信じようと思います。
次回、第一七二話 「おっぱいの神様」
回復魔法でも治らない病気があるとは聞いていましたが、わたしがその病気になるなんて、思っても見ませんでした。




