第一七○話 「死に至る病」
「欠損した手足が治るような回復魔法はありますか?その、切った部分から生えてくるような感じで。」
「切り落とされた手足をくっつけて回復魔法や魔術を使えばくっつくって話は読んだことあるッス。
でも、生えてくるって話は読んだことないッスね。」
「神聖魔法の中で時間が戻ったかのように治る魔法があるというのは聞いたことがありますが、相当高位の魔法だったはずです。」
読書家のミツキとサオリさんがそう答えてくれた。
前者は元に戻ろうという力を増幅させる術で、後者は文字通り時間系の魔法なのだろう。
術理としては、元に戻るための情報はDNAとか魂とかそういう根本的なところではなく、付近のパーツから読み取っているのかな?
「ランクが上がった時なら、どうでしょう?
お父さん、こないだランク上がった時に、ランクアップは回復というより肉体の再構築かもしれない。みたいな事、いってましたよね?」
なるほど。
「それはありえるかもしれない。サナ、よく覚えてたね。」
方法としてはアリだが、サオリさんはランクアップまでまだ2レベル足りない。
病の身の中、真っ当な方法でレベルをすぐに上げるのは難しいだろう。
なぜならパーティーでの経験値は一番上のレベルの者と敵のレベル差に依存するからだ。
パワーレベリングするなら私より1ランク上の敵を倒さなければならなく、そうなると、こないだのサンダーボルトハーピー以上の敵になるので、単純に危ない。
種族特性【眷属化】からの『淫魔の契り』でならすぐだろうけど、サナが言っていたサオリさんが男嫌いだというのと、何より今のサオリさんのお腹の中の状態なら相当痛いだろう。
淫魔法【被虐の心得】でカバーは出来るものの、出来れば避けたいので、それらは最後の手段だ。
おそらく粘膜吸収だろうから大丈夫だとは思うが、根本的に子宮が正常に動いていない状態でも淫魔の契りが有効かどうか?というのもあるしな。
「話を戻しますが、サオリさんのお腹の中では、先ほど話した間違った設計図に基づいて内臓が作り変わっていってます。
蝕んでいっていると言っていいでしょう。
回復魔法をかけると、この蝕んでいる部分が活性化して悪化している様子です。」
「だから、回復魔法を使ってはいけないんですね。」
サオリさんは納得したようだが、不安な表情はそのままだ。
それはそうだろう、どう考えても、いずれ死に至る重い病なのは明らかだ。
「わたしの身体は、あとどれくらい持つのでしょうか?」
「今のままでは5ヶ月持たないでしょう。」
サオリさんの覚悟を決めた顔に嘘はつけなかった。
「えっ!」
「そ、そんなに悪いッスか!」
「…ああ、良かった。死ぬ前にサナの顔をもう一度見れて…。」
そういってサオリさんはサナを見て微笑む。
死なせるかよ。
「私の父も場所は違えど、同じ病気で亡くなりました。
死に至る病なのは、そのとおりです。
ですが、なんとかしてみせます。
サナが義父親に引き続いて母親まで亡くすような、ミツキみたいな目に合わせるわけにはいきません。
もちろん、サオリさんのためにもです。」
「お父さん…。」
「パパ…。」
「レンさん…。」
「選べるほど手段があるわけではないので、サオリさん、覚悟だけは決めておいてください。
死ぬ覚悟ではなく、治すための覚悟です。」
そういってサオリさんの目を見つめると、頷くように目をつむり、改めて強い光の灯った瞳で見つめ返してきた。
「わかりました。この生命、レンさんに預けます。
なんでもしますので、生きることを手伝ってください。」
「あたしもなんでもします!お母さんを助けてください!」
「アタシもッス!」
サオリさんを囲むように抱きついている二人。
「逆に言えば5ヶ月も余裕があるし、痛みは今のように魔法で緩和できるから、落ち着いて治して行こう。」
「パパ、具体的には何をすればいいッスか?やっぱりさっきサナちーが言ってたみたいにランク上げッスか?」
「お母さん、レベルいくつだっけ?」
「18よ。」
「そう遠いレベルじゃないッスね。」
「そうだね。」
『レベル上げ』に慣れているサナとミツキは少し安心したようだ。
「方法としてはアリだと思うけど、どうしてもレベル上げが『淫魔の契り』に頼らなくてはならなくなるから、それは最後の手段にしよう。」
【状態異常】の一種である以上、ランクアップで余命宣告が一時的とはいえ無くなるのは確実だが、イコール治るか?というと、これはなんとも言えない。
「淫魔の契り?それより5ヶ月という短い時間で2レベルもなんて上がらないですよ。」
サオリさんが困惑した顔をしている。
「その辺りは、おいおい説明しますよ。」
サナです。
お母さんが治る方法がありそうなので、少しホッとしました。
でもお腹の病気なら、たしかに『レベル上げ』は辛いかも…。
次回、第一七一話 「試行錯誤再び」
でも、命にかかわる事だし…




