表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

159/979

第一五八話 「別れ」


 「それじゃあ、少ししたら睡眠の魔法を解くね。」

 「はい、お願いします。お母さんには、あたしの方からよく説明しておきますので。」


 ベッドに寝かしたサナのお母さん(と、いってもまだ僧兵の格好のままなので顔も知らないのだが)とサナをラブホテルにおいて、ミツキと一緒に部屋を出る。


 「なんか色々誤解というか思い込みをしてるっぽいッスから、一度二人っきりで話したほうがいいんじゃないッスか?」

 と、いうミツキの提案によるものだ。


 また起きるなり襲いかかられても大変なので、私がいない状態でサナが状況説明をするのは良い手だろう。


 それにラブホテルの部屋であれば、なにかあってもサナだけ部屋を出れば、『淫魔の契り』の指輪が無いので出入りの権利のないサナのお母さんだけを部屋に閉じ込めることもできる。


 「それじゃ、しばらく時間潰しにいくか。ミツキ、どっか行きたいところある?」

 「そう言われても、何があるかよく知らないッスよ?アタシ。」

 そりゃそうだ。



▽▽▽▽▽



 「あまり遠くには行かないほうが良いだろうし、ミツキが前に本が友達だって言ってたから、ここはどうだろう?」


 「資料館ッスか。ちょっと面白そうッスね。文字に飢えてたので嬉しいッス。」

 あまり人のことは言えないが活字中毒っぽいミツキを迷宮の資料館に連れてきた。

 と、いってもまだこの世界は活版印刷がメジャーじゃないのか、殆どが手書きのものばかりなのだが。


 雰囲気的には図書館というより郷土資料館といった趣なので、本自体はそれほど大量にあるわけではないのだが、活字中毒の空腹に不味いもの無しだ。


 私はモンスター辞典のような本を、ミツキは街と迷宮の歴史書のような本を選び、閲覧所に並んで座って読み始める。


 といっても、私の場合は、淫魔法【盗撮】で本の中身を文字通り写す作業をしているのだが。


 しばらくするとミツキが小声で話しかけてきた。

 「パパ、サナちーとは、ここでお別れになっちゃうッスか?」


 目線は本から離れていないが寂しそうな顔をしている。

 確かにサナを故郷に帰すというのなら、このまま母親に預けるのが確実だし筋だろう。

 だが、


 「前にも話したけど、サナの故郷に行くのは、勇者召喚について詳しく調べるためと、元の世界に戻る方法を探すため、元の身体を取り戻すため…は、もういいか、とにかく他の理由もあるから、サナのお母さんさえ許して貰えれば、一緒に行くつもりでいるよ。」


 「サナちーだけじゃなく、パパも居なくなっちゃうッスか?元の世界に帰っちゃうッスか?またアタシ独りになっちゃうッスか?」


 ミツキが腕にすがるように捕まりながら、泣きそうな目で訴えかけてくる。

 その腕を抜き、ミツキの肩を抱き寄せながら反対の手で頭を撫でる。


 「最初は帰るつもりだった。でも、今は迷っている。

 ミツキがいるし、サナもいるからね。

 正直、このままずっと三人で居たいと今は思っているよ。」

 「パパ…。」


 「それでもサナは帰る場所があるのだから、それは優先してあげなきゃ。」

 「………パパも元の世界に帰る場所があるんスか?」

 怯えるような表情でミツキが聞いてくる。


 「無いことは無い。でも、二人と比べて優先しなきゃならない場所ではないよ。

 極論からいえば、帰れなくてもいいし、帰れたとしても、またここに戻ってこれなければ帰るつもりもない。

 だから安心して。」


 「パパだけは、ずっと一緒にいてくれる?」

 「ああ。」

 少し表情が和らいだミツキを胸に抱きしめる。


 「ただ勇者召喚については、ちゃんと調べて置かないと、いきなりこの世界に連れて来られたんだから、いきなり元の世界に帰されないとも限らない。

 使う使わないは別として、知識はあった方がいいだろう。

 だから、どっちみちサナの故郷には行かなきゃならないし、もしも受けいれてもらえるなら、そこに三人で住んだっていい。」


 「パパがサナちーを、お嫁に貰って、今みたいに探索者するのもいいッスね。」

 イタズラっ子のような顔でそんな事をいうミツキ。

 少し元気が出てきたようだ。


 「その時はアタシも一緒に貰って欲しいッス。」

 うつ向いたミツキが座ったままお腹の前で指をせわしなく組み替えながら、真っ赤になってそんな事を言うので、釣られて顔が熱くなる。


 『お父さん、ミツキちゃん、もういいですよ。』

 「うぉ!」

 「ひゃい!」


 急なサナからの念話に驚いて跳ねてしまう。

 ミツキにいたっては椅子からコケかけていた。


 『わかった、今から戻るよ。』

 とりあえずサナにそう返して立ち上がり、ミツキに手を伸ばす。


 「行こうか、ミツキ。」

 「ハイッス!」


 ミツキの手を取り、二人手を繋いで資料館を後にした。



 ミツキッス…。

 恥ずかしさとビックリで心臓破裂するかと思ったッス…。

 離れたくないなぁ。


 次回、第一五九話 「サオリ」


 もちろん、サナちーとも一緒にいたいッス!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ