第一五二話 「見学」
結局、露店でドネルケバブのような食べ物を買って食べながら大道芸を見ることになった。
この世界に来てから、やっと余裕が出来たから思うのかもしれないが、二人を連れてどこかに行こうかと思っても元の世界に比べて圧倒的に娯楽が少ない。
貴族までいくとまた違うのだろうが、一般市民にとっての娯楽というのは、こういう旅芸人や収穫祭などの祭くらいしかないのかもしれない。
そういう意味ではカレルラに教えて貰った牧場なんかは珍しいのだろう。
とは、いっても、あれは街の人間相手というより、街間定期馬車で外から来る人向けの場所のようだが。
あと、どうしても大人向けの娯楽は酒と女と男となってしまうので、『そういうこと』に人族がのめり込むのは普通の事だとミツキが教えてくれた。
兎人族もどっちかというと、そっち寄りらしい。
これは人族との関わりが多いせいもあるそうな。
とはいえ、都会では『教会の教え』が幅を利かせているところも多く、人族は最近は禁欲寄りになっているとも言ってた。
発情期のある鬼族は、『そういうこと』は一定の時期に偏るので、物づくり、特に食べ物や酒などの飲み物を作ること自体が娯楽の一つなんだそうな。
実際のところ、サナは最近、結構『そういうこと』にのめり込んでいる気がしないでもないが、実際には愛情表現からくるものなんだと思っている。
とはいっても、娼館のお姉さん方や夜市のおかみさんに何か吹き込まれているっぽいが。
大道芸を見終わった後は、普段行かない南区へ見学に来ている。
南区はいってみれば職人街だ。
木工や彫金、革細工や鍛冶屋などの工房や、その店舗などが並んでいる。
家具屋なんかもあるな。
前におかみさんから聞いた話だと、南西区には職人や店を持っている街の住民たちが住む住宅街があり、北西区にはそれ以外の住人が住んでいるらしい。
ちなみに南東区は南門側から街の住民用の歓楽街、一般用の宿屋街、官公庁の宿舎、探索者用の宿街となっている。
探索者用の宿街は北西区にある歓楽街の側にも多いのだが、南東区はシルバー以上の探索者が中長期で借りるためのグレードが高い宿や、アパート、貸家がメインらしい。
ナチュラルに街の住民用の歓楽街がガードされている感があるが、実際そうなんだろう。
歓楽街の入口には警備員はいるものの、完全に探索者が出入り禁止というわけでは無さそうだ。
もちろん、鎧姿などの『いかにも』という感じの探索者は入場を断られているが、フォーマルな格好までいかないものの、真っ当な格好をしていれば止められない様子だ。
明らかに顔や腕に傷がある、いかにも探索者という感じの男でも、それで出入りはしている。
ん?一応探索者のタグや武器の有無は確認されているっぽい。
「あそこなんでしょうね?」
「街の住人用の歓楽街らしいね。」
「ってことは、余所者は入れないッスね。」
「そうでもないようだけどな。試しに行ってみようか。」
▽▽▽▽▽
「カッパーの探索者か。女連れだから今回は入っていいが、本来男はシルバー以上じゃないと入れないのを覚えておけ。服装にも気をつけてな。」
警備員に話しかけ、探索者のタグを見せるとそう言って通してくれた。
逆にいうと女性は服装さえまともなら入ってもいいらしい。
「やっぱり女連れだと悪さしないだろうって事なんスかね?」
「そうなんだろうな。」
「シルバー以上って、結構制限高めですね。」
「シルバーは探索者ギルド掲示板からの複数の依頼の達成経験があり、かつランク2以上。だっけか。
迷宮だけじゃなく街中や郊外を対象とした依頼も受けられるようになるし、仕事の指名も入るようになることを考えると、そこまでの信用が無いと駄目っていうことなんだろうな。」
シルバーまでいって、やっと探索者は街の市民権を得るみたいな感じなんだろう。
そうはいっても、娼館でミツキを襲った男もシルバーだったので、実際の信用は人それぞれなんだろうが。
「ランク2ッスか。ん?って事はアタシ達、レベルは足りてるので探索者ギルドの依頼を達成していけばシルバーにもなれるって事ッスか?」
「そういう事になるね。」
「それだと南東区にお部屋やお家が借りられるようになりますね。」
「その前に一回サナを里帰りさせて、家族を安心させてやらないと。」
そんな事を話しながら歓楽街を見学して歩く。
時間がまだ早いせいか準備中の店も多いが、ちらほらと開いている店がある。
「なんかお洒落な店が多いッスねー。」
「夜市とは大分雰囲気違いますね。」
「治安がいいんだろう。」
夜市や娼館の近くの歓楽街なんかは、普通に酔って殴り合いしてるやついるしな。
一応、この歓楽街にも娼館はあるようだが、店数も人種のバリエーションは少なく、逆に値段は高い。
その分、衛生的で病気の心配が少ないのだろう。
前に街の地図を眺めた時には気づかなかったが、スーパー銭湯みたいな入浴施設もあるようだ。
「せっかくだから、ここでご飯食べていこうか?」
ミツキッス!
なんか南区は別世界ッスね。
東区の夜市みたいな雰囲気の方がアタシには馴染むッス。
次回、第一五三話 「チーズ」
西区のパンケーキ屋さんやレストランでもそうだったッスけど、高そうで緊張するッス。




